皐月 新月 端午の節句

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「……いいえ、私は、鬼ですよ」  彼の声音が急に冷えたものになったので、私はぎくりとする。 「……生類(しょうるい)たちの住まいへ、行きましょうか」  手を引かれて、熱帯から寒冷地と取り揃った、テーマパークのようなエリアへ(いざな)われる。 「……ご覧になっていて、()に思われるところは、ありませんか」  私は首をかしげる。  夜行性のカピバラは、私たちの姿を見るといそいそと寄って来る。アルパカは膝を折って、ペンギンは思い切り寝そべって眠っていた。ナマケモノは、相変わらず木にぶら下がっている。 「そうですか。人から見ると、変わりないのですね」  クサブキさんはつぶやく。 「この者たちはもはや、()は必要ありません」 「え」  私は驚いてクサブキさんを振り向いた。 「私の放つ邪気により、すでに外界の生類(しょうるい)とは違うものに、成り果てたのです」  もう一度、まじまじと動物たちを見る。私の目からは、全く、変わったところは見当たらない。  クサブキさんの目が、動物たちを順に見る。 「ここにいる生類(しょうるい)どもは、元の性質(たち)が良かったのか、(くさ)としての性質(たち)なのか、人に害をなすような(あやかし)ではありませんが」  クサブキさんは私を振り向いた。 「アマネ殿。私がこの地に封じられた所以は、私が行った悪行のせいもありますが、主にはこの邪気にあります」  クサブキさんの声は静かだったが、ほんの少し、痛みが混じっているようだった。 「私がとどまった地には、邪気により(あやかし)が集い、また、新たに生まれてしまうのです。そのため、私はかつて生業(なりわい)を共にした同輩たちに、討ち果たさんと追われていました」  クサブキさんは息をつく。 「ある術者の力によってこの地に封じられ、自由を奪われる代わりに、私は、それらの追手より逃れられていたのです。この壁の中に()りさえすれば、私の邪気により、(あやかし)蔓延(はびこ)ることはない」    クサブキさんの瞳が、静かに私を見つめる。 「私のこれまでの(けん)からは、契りを交わさなければ、人に対して、この邪気が障りを起こすことはないとは存じますが」  そこで、彼は息を吸った。 「もしも、あなたに異変が起こることがあれば、……その時は、お別れです」
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