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「その、チキュウなる球体の上の、ニホンなる国の住人であられると」
「……はい」
彼が指を鳴らすとどこからともなく現れ、地面に広がったふかふかの布――おそらく何かの毛皮であろうと思われる――に座らされ、何かわからない液体の入ったカップを手渡され、私は仕方なく、彼に聞かれるがまま、自分の知る限りのことを話した。
未だに全く状況がつかめないので、抵抗のしようもない。
どうぞ、と勧められるが、カップの中の液体を飲む勇気は、私にはない。とりあえず、おかしなにおいなどはしないが、安全なにおいもしていない、気がする。
そんな私の様子に気を悪くした風もなく、彼は顎に手を当てる。
「おそらくあなたは……外の住人たちに、贄として呼び寄せられたのでしょう」
「ニエ」
「私への、捧げものです」
「はあ。……いや、いやいやいや……」
「珍しいことではないのですよ」
彼は、どちらかというと迷惑そうにため息をついた。
「ここ最近、見たこともないような変わった牛やら何やらが突然現れるので、扱いに難渋していたのですが、これで理由が分かりました」
パチリ、と指が鳴る。途端に、私の前に、真っ白なモフモフが現れた。
意表をつかれて私はカップを取り落としそうになる。
「これは」
「これが何か、ご存じか」
「はあ、これは、……アルパカ、ですね」
「ある、ぱか」
あるぱか、あるぱか。男は何度か繰り返す。そんな場合ではないはずだが、私はふいに湧き出してきた笑いを必死にこらえる。
「……これは、不味そうに見えますが、喰えますかね」
「……どうでしょう……。人間からすると、食べるよりは、毛を利用する方が、多いと思いますけど……」
「なるほど」
何なんだろう、この状況。
角と牙の生えた異様にきれいな顔の男と、白黒逆転した草原と、真っ白なアルパカと。
私は、そろそろ自分の脳の処理能力に限界を感じはじめていた。
「こやつらは、あなたのいる世界から、送り込まれてきていた訳だ」
角の生えた彼は、ふう、とため息をつく。
「確かに、ここしばらく、供物が途絶えがちだった。飢饉でもあったのか、十分な供物を出せるようなムラがなかったのかもしれないが……」
物思わしげな独り言。
「あやつら、禁術に手を出しおったな……」
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