睦月 新月 邂逅

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 アルパカの登場で私の気持ちは一気になごんだ訳だが、自分の置かれている状況が全く分からないのは相変わらずだ。  まず、この角と牙の生えた、人(?)。  終始口調は穏やかで、今のところ、手荒な真似をする様子はないが、全く得体が知れない。  私から質問などしても良いものだろうか。  急にキレられたりしたら、多分、一巻の終わりだ。  改めて、目の前の人物を眺める。  一重の切れ上がった目。美しく通った鼻筋、薄い唇。横顔のバランスは、完璧だ。  服装は、大昔の日本人に近いようだ。狩衣(かりぎぬ)、というのだろうか、平安時代の麻呂?みたいな格好の上になぜか、毛皮のベストのようなものを羽織っている。  でも髪型は、少し長めのセンターパート。そのまま街にいても、違和感のない感じだ。  まあ、まとめると、どこからどう見ても文句のない、和風のイケメンである。……角さえ生えていなければ。  彼は今、目を細めて、アルパカを眺めている。時々、あるぱか、とつぶやく様子が、こういったら何だが、だいぶかわいい。  モフモフを愛でられる感性の人なら、多分大丈夫だろう。  私は自分に言い聞かせる。 「あの……ここは、どこですか。あなたは、どなたなのでしょう」  ド直球の私の質問に、彼はきょとんと眼をまたたく。 「……そうか、あなたのことをお聞きするばかりで、こちらのことを何もお話ししていませんでしたね。これは失敬」  彼は優美に微笑んで座りなおす。 「ここは、ヒノモトノクニの、シホウという場所です」  え、ちょっと待って。私は焦る。 「ひのもとのくに」 「ええ、かつて(れい)していた大国より見て東の果て、日のいずる地という意味合いです。今はもう、彼の国も、滅んだことと思いますが」  つまりここは、……日本だ。私は思わず言い募る。 「ここは、日本の、どこなんですか。時代は、いつですか」  どう考えても、目の前の人物の口調や服装からは、今いる場所が現代日本だとは思えない。 「ほう、ここがあなたの国、ニホンだとおっしゃる」 「そうです。日の本の国、すなわち、日本です!」 「……なるほど」  彼は再び顎に手を当てた。 「ここは、アズマノクニのシホウです。ただ、……あなたのおっしゃる、時代、というものは、私には、分かりかねます」  そこで、彼はもう一度微笑んだ。 「……私はここに、もう大分長い間、封じられておりますので。外界の細かいことは、知ることが、できないのですよ」
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