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弓の男
昔から、俺は空気を読まないと、仲間たちから散々言われてきた。
それはその通りだと思う。でも、そこには理由がある。これまでもこれからも、あいつらに向かって言い訳をする気はないが。
俺の名は卜部季武。「頼光四天王」の、遠隔攻撃および防御、簡単に言えば、弓担当だ。
仲間たちも、本当は気づいているだろうが、俺の担当する役割は、戦闘の全体に常に目配りし判断することが必要になる。本気で気が使えない人間に、務まるポジションではない。俺は言ってみれば、あいつらの前では、あえて、空気を読んでいないのだ。
俺には、実は結構な神通力がある。現代風に言えば、異能者だ。現代に生まれ変わってしばらくして、自分が空中に浮けることに気がついたとき、俺は勝手に前世の記憶を思い出した。幼稚園児の頃から、変わった子だと言われていたが、もちろんそれは、前世の記憶に由来する。
俺の初めの人生での神通力は、本気でなりたいと思えば、安倍吉昌程度の陰陽師にはなれるレベルだった。ちなみに、彼の父親、安倍晴明の圧倒的な力を前に、その後の陰陽師たちの名声は、現代ではすっかり霞んでしまっているが、ああ見えて、吉昌殿もなかなかの実力者だった。
あのごちゃごちゃとした陰陽寮の非効率さに自分が耐えられないのは分かっていたので、俺は初めから、その道に進む気はなかった。もともと好きだった弓の道を極める途中で、妖力を見切ったり、妖に傷を負わせられる矢を放つ人材として、俺は源頼光殿にスカウトされた。
妖狩りは、なかなかに刺激的で、俺としては非常に満足のいく仕事だった。仲間が、あんなことになりさえしなければ、俺は非常に充実した思いで、一度で人生を終えることができただろう。
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