弓の男

3/10
前へ
/89ページ
次へ
 現世で最初に再会した仲間が安倍吉昌(あべのよしまさ)であったことは、俺にとっては意外だった。  というのも、彼は「不死の盟約」を結んではいない。非常に特殊なやり方――タイムトラベル――によって、俺たちに合流する手筈だった。  彼の陰陽師としての実力と、やんちゃな気質を、父である安倍晴明と兄の安倍吉平は非常に警戒しており、手綱を外す気はないとのことだった。彼は思春期に、だいぶやらかしたらしい。危なく神通力を封印されるところだったと、聞いている。  とにかく、吉昌は、元の人生に戻る以外では、一度移動した時間からは先の時間にしか移動できない、という縛りのもと、1000年の時空を旅して、俺の目の前に現れた。 「酒呑童子の首を見つけた」  出会い頭に告げられ、さすがの俺も事態を飲み込むまでに数瞬を要した。 「貞光(さだみつ)は、呼び寄せた。今、金時(きんとき)を迎えに行っている。(つな)は現世でまだ13歳。思い出させるには、早すぎる。対応は相談だ」  俺の様子に(かま)う様子もなく、吉昌(よしまさ)はべらべらと続ける。 「首は、ある身体に封じられている。お前には、その身体の中にもう一つ、封じられた魂が見えるだろうが、それについては、他の3人には、伏せていてもらいたい」  なるほど。一度の人生、時間が貴重な彼が、集合を待たずに時空を跳び、俺に先にコンタクトしてきた意図に気づき、俺は軽くうなずく。  吉昌がこれから何をしようとしているのかまでは、俺には分かりようもなかったが、それは、彼の父や兄、そして、俺たち四天王にとって、穏やかではないことなのかもしれなかった。 「分かったが、……あんまり、無茶するなよ」  茨木童子を、討ち果たす。言い換えれば、(くさぶき)を、開放する。そのことに、俺たちとは違った意味で、彼が並々ならぬ思いを抱いていることは、分かっていた。  彼は、陰陽寮では(くさぶき)の兄弟分だった。他の任務で、大江山の討伐隊に参加できなかった彼が、そのことをずっと悔やんでいたことも、俺は知っていた。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加