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「アマネ殿」
クサブキさんの声には、若干呆れた響きがある。
「それは、だいぶご無体です。私は、神ではないのですよ」
やっぱり無理か。私はぺろりと舌を出す。
「温泉を湧かせろなどと……」
出来たらとっくにやっている。意外にも温泉好きらしい鬼は苦々しくつぶやく。
「でもここ、どこかの山の中でしょう。山なら何とかならないかなーっ、て……」
クサブキさんは、軽く首をかしげて私を眺める。
なんかちょっと、嫌な感じだ。
「あなたは、聡い方のようにお見受けするが、ずいぶんと委しさに偏りがおありのようだ。シホウには、山はあっても火山はない」
山ならどこでも温泉が湧くと思うなよ。言外に告げられ、私は若干へこむ。
「……地学とか、苦手で。……それはともかく」
私は気を取り直す。
「カピバラは、温暖な水辺の生き物です。日本で飼育する時は、よく、温泉を利用したりしているみたいです。……今は、真冬ですし、なんとか、もう少し暖かく過ごさせてあげる方法を、考えなくてはなりません」
「暖かく」
クサブキさんの声音に思案が混じる。
この結界内の気温は、年間通して、いわゆる人間の適温に保たれているようだ。今だと私の体感では、22℃ぐらいだろう。夏にはもう少し、温度が上がるらしい。
「何とかしよう。……ところで、先日、新たな生類が参ったのだが」
「え」
またですか。
今度は一体何だろう。不謹慎ながら、私はワクワクを止められない。
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