61人が本棚に入れています
本棚に追加
生まれ変わりってのは、不思議なものだな。
俺は、合同修行中にもかかわらず、思わず浮かんでくる笑みを抑えきれずに仲間を眺める。
碓氷貞光は、生前もくるくると良く動く、前線担当だった。彼は現在霊体となり、3次元へと進化したその機動力は、特筆に値する。加えて必要時には、防御担当の坂田金時や、仕留め役の渡辺綱をサポートし、数m程度ならば瞬時に移動させられる手段をも身に着けている。
坂田金時の強靭な肉体、頑丈な得物による高い防御力は、前世とほぼ見劣りしない。渡辺綱に関しては、俺は個人的には、前世との生育環境の違いから、筋力や反射能力の低下、ひいては実力低下を危惧していたが、それは全くの杞憂だった。前世の記憶を取り戻した当初はともかく、そこから金時の道場での日々の鍛錬により、彼の剣術の圧倒的なキレ、決定力は、前世とほぼ変わりない程度まで持ち上がっている。
頼光四天王が再集結し、修行を再開し7年が経過した今、その実力は、前世と比較し格段に上がったと言えるところまで練りあがっていた。
その時、本当に突然、それの気配は現れた。
「奴だ」
叫ぶなり俺は瞬時に上昇し、気配を探る。1000年ぶりの感触。集中しようとするが、自分の動悸が耳の中でこだまし、意識をかき乱す。
気配は、遠い。そして、恐ろしいスピードで移動していた。
(全員では、間に合わん)
俺は貞光に合図を送る。飛翔移動ができる二人でなければ、到底間に合う距離ではなかった。
「肝心な時に。何でアベさんいないんだよ」
ぼやきながら、瞬時に俺の隣に貞光が現れる。彼は、遠隔で邪気を感知することはできないため、俺が先案内をしなければ、茨木童子にはたどり着けまい。だが残念ながら、生身の俺は瞬間移動はできない。
できうる限りのスピードで向かうが、やがてその気配は立ち消えた。
「……まずいな」
俺はつぶやく。
奴が再び、その邪気で妖を引き寄せ始めたら。
嫌な予感に、俺の胸はざわついた。
最初のコメントを投稿しよう!