弓の男

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「おそらく、あなたが見出された現世は、俺たちにとっても、そして(くさぶき)……茨木童子にとっても、永劫の苦難を抜けられる最後のチャンスなんだろうと思う。その終わり方が、あなたにとって望む形なのかは、分からない。多分、俺たちが相見(あいまみ)えれば、ほとんどの者は死という形をもって、その場から去ることになるだろう。ただ、それによって、あるいは俺たちは、不死の呪いから抜け出て、忘却と再生を繰り返す、輪廻の輪に戻れるかもしれない」  話しながら、その内容が、ほとんどが自らの願望にまみれたものであることは、俺は十分に自覚していた。ただ、もしも(くさぶき)を、このひたすらに続く、孤独の世界から救い出すことができるのならば、結局は、この形をとることしかないのもまた、事実だった。 「俺たちは、この1000年、それぞれのやり方で時を越えて、(くさぶき)を追ってきた。それは、あいつにとっては破滅への絶望の使者でもあり、同時に再生への希望の使者でもあったはずだ。……俺は、ここで、終わらせたくない」  俺は、薫子さんの、そしてその奥の瞳をのぞき込む。 「俺たちを、(くさぶき)のところへ、連れて行ってくれ」 *  数日後の10月の満月の夜、薫子さんは姿を消した。  俺以外の四天王は、かどわかしだと色めき立った。俺は、ただ、絶望していた。  彼女の中のもう一つの魂が、強制なのかそうでないのかは不明だが、薫子さんの身体を茨木童子の元へ(いざな)ったのは、疑いようがなかった。  彼女は一人で、茨木童子の元へ去った。その選択は、破滅への一本道だった。  愚かだ、俺は思う。しかし一方で、俺はどこかで、救われていた。例えそれがどれほど愚かしい選択だったとしても、全てを捨てて、あいつと共に在ることを選んでくれる存在がいた、そのことに。  そこで俺は首を振り、無益な感傷を振り払う。  俺たちは、(あやかし)狩り。  1000年の時を越えて、やり残した仕事の後始末を、今生の、ここで、つけてみせる。  俺は弓の(つる)を引き絞り、その感触を確かめる。
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