陰陽師

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陰陽師

 本当に、間一髪だった。  へらへらと笑って見せながら、俺は、背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じる。  俺たちは、危なく、もう一体、鬼を生み出してしまうところだった。  まあ、はっきり言って、俺のせい、だったわけだが。  こうもやることなすことが裏目に出るとは、自分は本気で、陰陽師からのジョブチェンジを検討する必要があるかもしれない。  茨木童子の封じられた結界。  頼光四天王と茨木童子との戦闘を、何とか中断させ、(つな)の闘気が収まったことを確認し、俺は息をつく。  親父と兄貴に半殺しの折檻をされ、正直、今の俺には、余力がない。  何とか力が保っているうちに、あまねちゃんだけでも、切り離さないと。  必死に繰り出した術は、しかしやはり、ある意味、裏目に出た。  薫子さんの身体に俺が太刀を振り下ろした瞬間、茨木童子から放たれた青色の邪気が俺を襲う。俺は本気で一瞬、死を覚悟した。    飛んできた矢の水の力を利用して、というかほとんど卜部(うらべ)が術を使い俺がサポートしたに等しいのだが、何とか茨木童子を、水球に閉じ込める。  俺は一瞬気を失いそうになりながら、最後の虚勢で、必死にニヤニヤ笑いを続けていた。 *  酒呑童子一味への潜入の任務は、もともとは、俺が行かされる予定のものだった。  だが最終的に、その任務に駆り出されたのは、まだ成人後間もない(くさぶき)だった。その当時、別の大きな怨霊の案件が生まれてしまい、安倍の一族は、そちらにかからなければいけなくなってしまったのだ。  明らかに世間ずれしていない生真面目な(くさぶき)に、こんな汚れ役が務まるはずもない。俺は反対したが、黙殺された。  そして事態は、最悪の結末を迎えた。(くさぶき)がしくじるかもしれない、それは大半の(あやかし)狩りは頭の片隅で考えていたことだったが、あいつが殺されることはあっても、まさか、酒呑童子に魅了されてしまうとは、いくら俺達でも、全く予想ができなかった。  言い訳をさせてもらえば、酒呑童子は、男の鬼だと皆が信じ込んでいたのだ。
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