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問題は、まだ残っている。
俺は、今はひとつだけの魂を宿した、ひとつに戻った薫子さんの身体を振り返る。
酒呑童子が恐ろしい量の日本酒を注ぎ込んだ身体は、ほとんど急性アルコール中毒の、昏睡状態に近い。早く酒を抜かないと、まずいことは明らかだった。
蒼白な顔でぐったりとした薫子さんを抱える渡辺綱に、俺は声をかける。
「綱、悪いが一度、俺に彼女を預からせてくれ。術で酒を抜く」
本当のところを言えば、酒を抜くくらいの術は、別に皆の前で使おうが差し支えのないものだった。俺が彼女と二人きりになりたかった理由は、別にある。
横たえた彼女の体に手をかざし、彼女の血液と消化管の中のアルコール分を取り出し掌に貯める。息を吹きかけ火をつければ、それは青白い美しい光を放って燃え尽きた。
ゆっくりと目を開いた薫子さんに、俺は声をかける。
「気分はどう。神経系のアルコールも、抜ききれたかな」
彼女はまばたきをし、俺に目を向ける。ややぼんやりとしているが、大事はなさそうだった。
「俺は、安倍吉昌。君の守護者たち、頼光四天王の仲間の、術使い――陰陽師です。多分、名前は聞いているかな」
俺の自己紹介に、彼女はゆっくりと起き上がり、うなずいた。
「あの、私……」
「君の中のもう一人の巫女に、眠らされていた。今日は11月19日。多分、君の記憶が途切れて、ちょうどひと月だ」
彼女はもう一度うなずく。
「本当は、もう少し丁寧に、このひと月に何が起きたのか君に説明したかったけれど、時間がない。少し乱暴なやり方だけれど、許してほしい」
彼女は首をかしげる。
「多分、君の意識が戻ったら、渡辺綱――源君は、君と別れると言い出すと思う」
俺の言葉に、彼女の目がゆっくりと見開いた。
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