睦月 満月 再訪

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「これは、……ペンギンですね」 「ぺん、ぎん」  クサブキさんは明らかに渋面になる。私がいなければ、頭をかきむしっていたかもしれない。 「どうしてこう、()(まど)(たぐい)の名のものばかり」  ぺん、ぎん。ぺんぎん。いつもの反芻作業。 「……参ったな、ペンギンは大体、寒いところに住んでいるんです」  ペタペタと歩き回る飛べない鳥を前に、私は唇をかむ。  アルパカも寒冷地、そして乾燥した環境を好む。こうも飼育環境がばらばらだと、この限られた結界の中で、どうやって動物たちを快適に過ごさせるか、非常に悩ましい。  そもそも、クサブキさんが、どんな力を持っているのか、動物たちの環境を整えられる力があるのか、まだ私には皆目わからないのだ。 「『寒い』とは、どのような場所なのかな」  クサブキさんが目を上げて私に問いかけた。 「ペンギンの種類にもよりますけど……水の温度が低くて、場合によっては、雪の上で過ごすものも……」  動物園のペンギンを思い浮かべながら、私は返事をする。  ああ、動物図鑑が欲しい。目の前のペンギンが何ペンギンかもわからず、私はもう一度唇をかむ。 「ふむ、冷水(しみず)温水(ぬるみず)か……」  なにやら独り言ち、クサブキさんが指を鳴らすと、彼の目の前に水を張った(おけ)が現れた。  彼は右腕をまくると、おもむろにその(おけ)に腕を突っ込み、ぐるぐるとかき回す。  やがて(おけ)から引き上げた右手には、何かが握られていた。 「氷……」  私は呆然とつぶやく。  (おけ)の中の液体は、湯気を上げぐつぐつと煮立っている。 「ふむ、この術の(ことわり)を使えば、冷水(しみず)温水(ぬるみず)を生み出すことは、訳はないが」  私はあっけにとられて彼の手元を眺める。  神ではない、とかおっしゃってましたけど。  温泉湧かすのと、水を氷と熱湯に変えるのと、どっちもどっちではないかと。 「……この術は、自然の力の(ことわり)を歪めるものではない。(ゆえ)に、今の私でも、成すことができる」  私があまりにガン見していたからなのか、クサブキさんは静かに説明してくれる。  要は、熱エネルギーを移しているだけで、無からエネルギーを生み出しているわけではない、ゆえに簡単な術だ、ということらしい。  うなずきながら、私は改めて実感する。  この世界の、原理が良く分からない。    それから、クサブキさんは空中に手をかざし、温風と冷風を生み出して見せてくれた。  持続的に術を使い続けるのは、消耗も激しいため、何か策を考える、と彼はつぶやく。
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