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真夜中のミルクティー。カフェインのせいで、今夜はうまく眠れないかもしれないけれど、飲まなければやってらいられない。一気にカップを空にするとテーブルに置き、私は、ボスンとソファーに腰を下ろす。隣に座っていた源君が、びくりとした。
「……ひどいよ」
「……ごめん」
甘えて彼の肩に頭をもたせかけて、わざと口をとがらせて言ってみると、こちらの胸が痛くなるくらい暗い声が返ってくる。
「冗談よ。……大変な、任務を、背負ってるのね。1000年なんて、想像もつかない」
私はため息をつく。
「君が知らずに引き受けていたことの方が、大変だろう」
相変わらず暗い声で、源君は言う。彼の目が虚ろに床を見つめているのを、私は哀しい気持ちで眺める。
嘘の苦手なこの人が、10年も、私に隠し事をしながら、そばにいてくれた。
「源君は、私が巫女だから、そばにいてくれたの」
そんなはずはないのは分かっていたけれど、彼があまりにも憔悴した様子なので、私はあえて言ってみる。ショック療法だ。
彼は弾かれたように顔を上げる。
「そんなわけ、ないだろう」
珍しく朱がのぼった彼の顔を、私はじっと見つめる。
「じゃあ、どうして」
「どうしてって……」
彼は一度唇をかんでうつむいた。それから、意を決したように顔を上げる。
「薫子。俺は、どんなことでもして、強くなる。君の隣で、君を守りながら、自分の役割を全うしてみせる。あの時、そう、決めたんだ」
「あの時……?」
「君が俺に、好きと言ってくれた、あの時だ」
あの、16歳の夏の日。私の胸は熱くなる。
「薫子。俺は、君を、愛している。これから何があろうとも、絶対に、それだけは変わらない」
その言葉のあまりに悲痛な響きに、また、私の胸は痛くなる。
私は黙って、彼の胸にもたれる。彼のいつもより少し早い鼓動を感じながら、彼の背中に腕を回す。
優しく私を抱き返す彼の腕の感触に酔いしれながら、私は静かに、彼の言葉を胸に刻む。
――これから、何があろうとも。
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