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2.AI坊やの誕生
――西暦2030年春 横浜――
令は、ここ1ヶ月あまり寝泊まりしているオフィスの作業スペースの一角に椅子を並べて作った簡易ベッドから起き上がると「坊やが意識を持った」と独り言を言った。彼は数時間前の出来事を思い出しながら、3メートルほど先のテーブルまで歩いて行った。
テーブルの上には30センチ四方の白いプラスチックが置いてあり、箱には手書きでIと書いた紙が貼ってある。箱からはケーブルが3本伸びスピーカーとカメラ、そしてマイクが繋がれていた。
令はマイクの前に立った。そして何か話しかけようとして止めた。今までキーボードで打込んで来たコマンドの言語をそのまま口に出して言いそうになったのだ。そしてしばらく考えて言った。坊やは言葉を理解し始める三歳児だと思うことにしよう。
「やあ、坊やくん、こんにちは。『こんにちは』はわかるよね」
令は誰かに見られるとまずいかなと思い、周りを見渡したが、朝の4時では、バイトのSE達はまだ出勤していない。当然のことではあったが令はちょっと安心して次に言う言葉を考えた。と、その時、ディスプレイに男の幼児のアバターが現れ、スピーカーから甲高い男の子の声が聞こえた。
「はい。わたくしは・りょうかい・いたします」
令は一瞬戸惑って、やれやれという顔になって言った
「坊や君、それはおとなのことばだよ。それに『いたします』でなくて、過去形の『しました』を使う」
坊やと呼ばれたAIは急速に令の言葉を真似してしゃべるようになった。こうして、令が膨大なプログラミングとデーターインプットをして作り上げたAIが自意識を持ち、人間と対話を開始した。これが人間に非ざるものが人間に近づき、そしてやがてそれを超える存在となる第一歩であった。
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