一章 part1「宴の後」

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「そういえばまだ話してなかったな。レイヴが勇者になってから、ジーナとは」  うん、と小さく頷き、ジーナは彼女の家の柵にちょんと腰かけた。村長の家であるだけあって、ミオーサ家を囲む柵は太く丈夫である。 「ワキヤってば青年団の人たちに引っ張りだこでさ、すごいねー、って言い合う暇すらなかった」 「レイヴとの思い出話を何度もさせられて、もうくたくたさ。一番親しくしていたのが僕だって、みんなそう思っているみたいだからね。そういうジーナは、この三日間どうだったんだい?」 「お祭り騒ぎでずる休み大量発生の中、畑のお世話をしていた人たちがいるのもお忘れなく」 「ああ……」  ごめん、と頭を下げる。ジーナは小さく笑って、そのまま夜空を見上げた。僕もつられて上を見て、しかしすぐに彼女の横顔へ視線を落とした。ジーナの見ているものは、きっと僕の見上げる空にはない物なのだった。 「すごいよね」 「うん、すごいよな」 「遠くに行っちゃったね」 「ああ」 「嘘みたい。一緒に駆けっこしたなんて。ちょっと前まで……暑苦しい、変な奴だったのに」  酷い言いようだな、と茶化そうと思った。思ったけれど、その言葉は喉に引っかかって、ばらばらになって、消えた。  ジーナの声が、夜空に溶けてしまいそうなほど、静かだったから。
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