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「ワキヤも、同じ気持ち?」
「えっ?」
囁きのような質問に、素っ頓狂な声が漏れた。物憂げな横顔が僕を捕らえ、そしてまた空を仰ぐ。見慣れているはずの悪戯っぽい無邪気な笑顔は、夜闇のせいか、酷く儚げに見えた。
「一緒にトボトボ歩いてくれそうな人、ワキヤぐらいしか思いつかなくて」
「僕で良ければ、いくらでも」
普段なら、もっと違うことを言うのが僕とジーナとの関係だった。安堵したような笑みを向けられている今だって、いつも通りにからかう言葉や意地悪な言葉が頭に浮かぶ。
ジーナは年下ながらにいつもなんだか尊大で、そのくせどこか抜けている、愛嬌のある少女だった。そういうある種の可愛げは、村の大人たちに「べっぴんさん」と評される小柄で可憐な見たままの姿を、逆に霞ませていたのかも知れない。
「じゃ、トボトボしよっか」
腰かけていた柵から跳び下りてジーナがすぐ隣まで駆け寄って来ると、乾いた草の匂いが鼻孔をくすぐった。
「その前に、靴、履き替えてきたら?」
足元を見たジーナが赤面し、トーンの低い悪態をつく。
麦穂の香りが村長の家へと遠ざかっていく中で、僕は自分の鼓動の音に気づき、熱くなっていたらしい胸の中を夜の空気で満たした。
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