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一章 part2「妹分」
「私ね、勇者募集のお触れがあったとき、怖かったんだ」
ジーナがぽつりとそうこぼしたのは、麦畑の前を歩いているときだった。居住区からさして離れてもいないこの場所は、陽が落ちると穂波の揺れる音や虫の声で居住区よりも騒がしい。
そんな場所だから、二人で他愛のない話をするのには、石畳の上よりも気楽なのだった。
「怖かった?」
「うん。レイヴとワキヤが、王都に行って、本当に勇者になっちゃうんじゃないかって」
「僕が?」
驚いたふりをした。
ジーナの言葉は思いがけないものではあったけれど、彼女にそう思われていたということ自体は、考えるまでもなく合点の行くものだった。
勇者に憧れるレイヴと一番仲が良くて、実力にも大きな差のない若者。村の多くが僕のことをどう見ているのかはこの三日間の中でも改めて自覚することができていたし、だとすればそんな僕の姿をいつも近くで見ていたジーナが、僕とレイヴのことを一括りに勇者志望だと思い込んでいたというのも無理のない話だ。
「まるで、勇者になって欲しくなかったみたいな言い方だ」
ランタンに照らされた横顔をはっとさせ、気まずそうにジーナが歩を止める。
「勇者なんて、村の警備よりも危険だろうし、それに……そんな大層な人間になっちゃったら、きっともう、昔みたいには遊べないから」
「そんなことはないさ。レイヴが世界を守って、僕やジーナが村を守って……そうしていればいつかまた、子供だった頃みたいに笑いあえるさ」
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