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ジーナを交えて勇者ごっこや冒険ごっこに興じたのは、いつが最後だったのだろう。隣で立ち止まる僕を見て、ジーナがはにかんだ。
「ほんと、優しいなあ、ワキヤは」
「え?」
「分かってるよ。レイヴが勇者にならなくても、ワキヤが村を出なくても、誰だっていつか、子供みたいには遊ばなくなる。ここ何年かだって、もうそんな風には遊んでなかったんだもん」
錆色の髪が翻り、ガウンコートが背を向ける。麦穂が騒いで、僕の胸はひときわ大きく跳ね上がった。
「みんないつの間にか大人になって、何かになって――レイヴはそれが、勇者だったってだけ。もうとっくに私たちだって子供じゃないのに、レイヴが勇者になるまではそれに気づいてなかったっていう、それだけ」
「ジーナ……」
訥々と続ける後ろ姿に、かける言葉は見つからなかった。
ただただ、僕は、安易に吐き出した詭弁を恥じた。詭弁を見透かしていた幼馴染の姿に、いつも見ていたはずの子供じみた少女を見失っていた。
「でもね、だから、嬉しいんだ。昔からずっと、ワキヤは変わらずいてくれて。優しいワキヤでいてくれて。レイヴの誘いも断って、村に残ってくれて。今も、こうして励ましてくれて」
振り返るジーナから、目を逸らすことができなかった。直視できる自信もないのに、ランタンの明かりにきらめく長い睫毛に、薄い唇に、僕の目は釘付けにされているようだ。
「僕が――」
耐えきれず、口だけが動く。
「僕が残ったのは、そんな、優しいとかじゃなくて――」
ジーナには、いつも意地悪な言葉をかけているつもりだった。些細なことでからかって、追いかけられたりむくれさせたりするのが、僕とジーナとの関係であるはずだった。ジーナにとっては、違ったのだろうか。
「どのみち、僕は勇者になんてなれっこなかったよ。勇者の仲間だって荷が重い。そんな大層な人間じゃあないんだ」
「ありがとう。一緒にトボトボ歩いてくれて」
有無を言わせない感謝の前に、きらめく笑顔の前に、浅はかな自虐は無力だった。
居住区に向けて歩き出すジーナを、僕は何も言わずに追いかけた。心なしか足早な彼女のペースは、僕の歩幅にはちょうど良くて、そのせいか、いつもの僕ららしからぬ帰路であるにも関わらず、居心地の悪さはなかった。
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