一章 part2「妹分」

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 ジーナを交えて勇者ごっこや冒険ごっこに興じたのは、いつが最後だったのだろう。隣で立ち止まる僕を見て、ジーナがはにかんだ。 「ほんと、優しいなあ、ワキヤは」 「え?」 「分かってるよ。レイヴが勇者にならなくても、ワキヤが村を出なくても、誰だっていつか、子供みたいには遊ばなくなる。ここ何年かだって、もうそんな風には遊んでなかったんだもん」  錆色の髪が翻り、ガウンコートが背を向ける。麦穂が騒いで、僕の胸はひときわ大きく跳ね上がった。 「みんないつの間にか大人になって、何かになって――レイヴはそれが、勇者だったってだけ。もうとっくに私たちだって子供じゃないのに、レイヴが勇者になるまではそれに気づいてなかったっていう、それだけ」 「ジーナ……」  訥々と続ける後ろ姿に、かける言葉は見つからなかった。  ただただ、僕は、安易に吐き出した詭弁を恥じた。詭弁を見透かしていた幼馴染の姿に、いつも見ていたはずの子供じみた少女を見失っていた。 「でもね、だから、嬉しいんだ。昔からずっと、ワキヤは変わらずいてくれて。優しいワキヤでいてくれて。レイヴの誘いも断って、村に残ってくれて。今も、こうして励ましてくれて」  振り返るジーナから、目を逸らすことができなかった。直視できる自信もないのに、ランタンの明かりにきらめく長い睫毛に、薄い唇に、僕の目は釘付けにされているようだ。 「僕が――」  耐えきれず、口だけが動く。 「僕が残ったのは、そんな、優しいとかじゃなくて――」  ジーナには、いつも意地悪な言葉をかけているつもりだった。些細なことでからかって、追いかけられたりむくれさせたりするのが、僕とジーナとの関係であるはずだった。ジーナにとっては、違ったのだろうか。 「どのみち、僕は勇者になんてなれっこなかったよ。勇者の仲間だって荷が重い。そんな大層な人間じゃあないんだ」 「ありがとう。一緒にトボトボ歩いてくれて」  有無を言わせない感謝の前に、きらめく笑顔の前に、浅はかな自虐は無力だった。  居住区に向けて歩き出すジーナを、僕は何も言わずに追いかけた。心なしか足早な彼女のペースは、僕の歩幅にはちょうど良くて、そのせいか、いつもの僕ららしからぬ帰路であるにも関わらず、居心地の悪さはなかった。
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