一章 part3「遭遇」

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一章 part3「遭遇」

 昼過ぎの強い日差しが降り注ぐ中、耕作地側とは違って木陰の多くなる森林側の道は、心の高鳴るような懐かしさも相まって心地が良い。畑仕事にひと段落をつけた後にも関わらず、僕の脚は疲れを覚えるどころか軽快にその歩を進めていた。  アルトチューリは小山の麓に位置する村だ。  裏山や林を仕事場にする村民にとってはそれこそ庭のようなものなのかも知れないけれど、村の大多数を占める僕のような農民たちにとって、山の方へ足を運ぶことはある種の非日常であった。大きな危険があるわけではないものの、かと言ってそこへ行く用すらもないのだ。  だからこそ、村の子供が度胸試しに足を延ばすのにはうってつけの場所でもあった。居住区の裏に回り、柵を超えて、雑木林を横切って――その先に待ち構えるものは、いつでも、どんなものでも新鮮に感じたものだ。  レイヴと見つけたあの洞窟は、そんな中でも特にお気に入りの場所だった。他の多くの場所が山側で仕事をする村民の道具置き場などになっていた中で、あの洞窟だけは人工物の気配が感じられなかったからである。  あの場所を見つけてからしばらくの間は、そこを自分たちだけのキャンプ地とするべく、食料やら書物やらを持ち込んで何度となく通い詰めたものだったけれど――こうしてまた、木陰の道を歩くのは何年ぶりだろう。
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