一章 part3「遭遇」

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「さっきも言ったが、オマエらの村を襲う気なんてねぇよ!」  僕の期待に反して、ゴブリンがそう叫んだ刹那、  その逃げ腰な矮躯は、悲鳴を上げることもなく吹き飛んだ。  一瞬で姿を消したようにすら思った。吹き飛んだと理解できたのは、大木に叩きつけられたゴブリンが鈍い音を発したからだ。昂った気持ちのやり場を失ったせいか、あるいは突然の出来事に恐怖を感じたためか、ゴブリンの身体が力なく幹からずり落ちるのを見て、僕は悲鳴とも雄たけびともつかない声を上げた。 「大丈夫だった? 村人さん」  どこか、嘲りを含んだような声。見ると、さっきまでゴブリンが立っていたはずの場所で、緑がかった軽装の鎧に身を包む女が微笑んでいる。 「あ、い、いまのは」 「森の中に逃げ込まれたときは、面倒なことになったなーなんて思ったけど……あんな大声出してちゃ、見つけてくれって言ってるようなもんだよねえ」  こちらの質問には答えず、女は倒れたゴブリンに目を向ける。 「さてと、あとはもう一匹いるはずだけど――村人さん、他にゴブリン見てない?」  冷たい目を向けられて、僕は黙って首を振った。 「そっか。じゃあ、死にかけのゴブリンくんにでも聞くかぁ。威力低めの攻撃しといて正解だったな」  もはやいち村人になど欠片も興味がないといった様子で、女は抜き身の剣を携えてゆっくりとゴブリンに向かっていく。呆然と立ち尽くす僕のすぐ脇を通り過ぎた彼女は、長い金髪をなびかせて、その冷たさとは対照的な、柔らかい香草の香りを残していった。 「あ――、あの!」  必死に呼びかける農民を、長い睫毛が振り向いて一瞥する。色素の薄い瞳を持つその騎士は、その顔立ちから異国の風情を感じさせた。 「なに、村人さん。もしかして、ゴブリンの残党、知ってる?」 「いえ、あの、あなたは――」 「ああ」  女は、何か楽しげなことを思いついたように表情を和らげて、こちらに向き直った。
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