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靴底を削るように一歩を進める。屍術師は表情を変えもせず、節くれだった指を広げ、枯れた手のひらをこちらに向けた。それが術を仕掛ける仕草なのか、あるいは待てというポーズなのかを測ることができず、僕の足はそのまま固まった。
「儂はこちらの世界に来てから日が浅いが、以前にこういう戦法をとった魔王軍と勇者一行がいたというのは小耳に挟んだことがある」
何を語りだすかと思えば、考えることは同じだったということか。そう思うだけで僕の口元は再び緩み、それは敵の笑みをも誘う。
「なんでも、最初にそれをした一行の伝説は、娯楽本や戯曲にもまとめられる、大層人気のある題材らしいじゃないか。最初に立ち塞がった魔王軍参謀の相手をするため、ここは俺に任せて先へ行け、と真っ先に残ったのは、確か、腕っぷしの強い戦士だったか」
くつくつと嫌らしい笑い声。これが話術による時間稼ぎなのだとすれば、僕は完全にその術中に嵌っている、ということになるのだろう。
「そして、最後まで勇者と行動を共にした魔術師は、その身をなげうって魔王軍最強の幻術使いの技を破ると、勇者に強化魔法をかけて先を急がせた」
屍術師はその手を下ろし、緩慢な動きで立ち上がった。
「儂のような新参者が簡単に調べた限りでは、そんな話ばかりだ」
立ち上がった屍術師に、しかし戦意は感じられない。僕の脚は自然と一歩退がり、構えた指先は疲れを思い出した。
「どれ、君は知っているかな。その間に残った勇者一行のメンバーを。魔王軍の兵を。きっと、マニアックで面白みのない歴史書にならば、名前ぐらいは載っているんじゃあないかと思うのだがね」
「何が言いたい」
くつくつ。嘲るような笑い声。自嘲のようですらあると感じるのは、僕が既に言外の意図を察してしまっている故なのだろうか。
僕は、
僕は、三番目だった。
そして僕は勇者の歴史に特段詳しいわけでもなかったから、屍術師の言葉を掻き消すことができなかった。
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