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「レイヴの敵なら、見逃すわけにはいかない」
「はっ。誰が、誰を見逃すって?」
女が嗤った。次の瞬間、一気に間合いを詰めた僕の拳が彼女の小手を突き、ロングソードは宙を舞った。
「なっ――!」
「なんだ。レイヴの方がずっと強い」
驚いた表情が、冷めきったものに変わる。安い挑発に乗るようなタイプではないか。そう判断するかしないかのうちに、僕の身体は地面に転がっていた。
叩きつけられた背中に激痛が走る。次いで、腹部の抉られたような痛みを思い出す。さっきまで眼前にあったはずの偽勇者の姿が、遠い。
「不意を突いただけで調子に乗るなっての。本当は一般人相手に攻撃なんてしたくなかったんだけど、先に手を出してきたのはアンタだからね。そこで這いつくばって、自分の短気を反省してな」
吐き捨てるように言って、偽勇者は剣を拾い上げる。彼女の興味が再びゴブリンの方へ向きかけたと同時に、僕は痛む全身を奮い立たせた。
「まさか剣は飾りだったとはね。今のは魔法か」
「へえ、すぐに立ってくるだなんて丈夫だね。死なないように手加減した風魔法じゃあ、物足りなかった?」
「手加減だなんて、痛み入るよ。本物の勇者の友人として、勇者を騙る奴の前に倒れるわけにはいかないんでね」
魔法の直撃を受けた腹が、未だ焼けるように痛い。強がってはみたものの、もう一度これを食らって立ち上がる自信はなかった。
「だいたい、先に手加減してやったのは僕の方だったじゃないか。不意を突いた一撃で、剣じゃなくて急所を狙ってやっても良かったんだぞ。それこそ、君のさっきの魔法みたいにね。いきなり鳩尾を狙ってくるだなんて、短気なのは君の方か――そうでなければ、ビビってる証拠だね」
自分でもよく分かっている。ビビっているのは、むしろ僕の方だ。饒舌になるのは、ある種の防衛、時間稼ぎでしかない。
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