3人が本棚に入れています
本棚に追加
ウィアが再び剣を構えた。相変わらずの冷めた表情から判断するに、僕の挑発に乗ったわけではないらしい。
「もう一度聞くぞ。君はレイヴの敵なのか」
「ああ、敵だよ」
ただただ面倒くさそうに、ウィア・ドルズはそう吐き捨てた。剣を構えながら一歩も動かないその姿に、警戒心が騒ぎだす。
「もう一つついでに、田舎者のアンタに教えといてやるよ。魔法を使うからといって、アタシの剣は、飾りじゃない」
口元に笑みを浮かべたウィアの金髪が躍り、その足元では草が激しく靡き始める。どんな攻撃が来るのかは分からないまでも、風魔法を使って何かをしようとしているらしいことは確かだろう。
脚が、自然と後ずさった。大股で踏み込んでも十歩分はあろうかという距離が更に遠ざかり、それでも安心感がほんの少しも増すことはない。
「剣に魔法の効果を纏わせて威力を上げる。魔法剣ってやつさ。剣の腕だけならともかく、この技があればストリーブの奴には負けない。受けてみなッ!」
ウィアが剣を大きく振り上げた刹那、鋭い風の音が森林の中に渦巻き、次いで、ごす、という小さく鈍い音が聞こえた。今にも攻撃を繰り出そうとしていた偽りの勇者はその剣を取り落し、彼女の雄叫びにも似た呻き声が風の音の代わりに響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!