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「だからこそ、君はこんな駄弁に耳を傾けている」
屍術師が、笑った。憐れむようなその笑みは、優しげですらあった。僕の身体は理性を置き去りにして突き動かされる。主を庇いに来たゾンビたちをその勢いのまま蹴散らし、しかし理性を欠いた拳はわずかに身をよじった屍術師に届くことなく空を切った。
「結局時間稼ぎか!」
「勝負を急く必要がない、というのは本心だよ。儂と君との戦いの結果が、大局に影響を及ぼすことなどない」
問答しながらも屍術師は距離を取り、僕は無数のゾンビに取り囲まれる。眼前の屍を殴り飛ばすも、それはすぐ後ろに控える屍にぶつかり、肉の壁となって屍術師への道を遮った。
この程度の包囲ならば、まだ幾らでも活路はある。昂った精神を一呼吸のうちに落ち着かせ、肉の壁に風穴を開けるべく拳に力を込めた。
そして、魔王は去り、
勇者は死んだ。
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