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通信兵の話では、レイヴは王宮が用意した二人の戦闘員を引き連れて王都を出たのだという。冒険の出発時に王国推薦のメンバーが随伴する、というのは三代前からの慣例となっているのだそうで、子供時分の僕たちはそんなことも知らず、未知の行軍に思いを馳せていたわけである。
アルトチューリは何代も前から脈々と農業を続けてきた村だ。戦争にも悪政にも飢饉にも魔王の襲来にも耐え、領主が潰れようが国が変わろうが、地味で代り映えの無い平和な日々を延々と営んできた。
多くの村民が村の半分以上を占める麦畑で働いていて、僕もまたそういう両親のもとに生まれ、同じように働くことを当たり前の将来として生きてきた。
だからこそ、あの頃のレイヴの誘いはただの絵空事で、万に一つを期待することさえあり得ない楽しげな夢物語でしかなかったのだ。少なくとも、僕にとっては。
レイヴにとっては、違ったんだな。なんて、そんな当たり前のことを今更にして実感する。そんなことは、勇者募集の報を受けたレイヴの喜び勇んだ顔を見たときから――いや、周りの大人たちから勇者だと持て囃されるたびに満更でもない様子で背筋を伸ばす姿を横目に見ていた頃からずっと、ずっと、理解していたはずなのに。
「おめでとう、レイヴ」
いつも近くにいたはずの親友に向けた想いが意図せず口をつき、湿った夜の空気をわずかに震わせた。
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