3人が本棚に入れています
本棚に追加
敷石に、丸みを帯びたものが目立ち始める。居住区の端から端まで鈍色に統一された石畳は、しかし古くからの住民が暮らす区間と、比較的新しい区間とでは敷石のくたびれ具合がわずかに違う。酒場やストリーブ家は新しい区間、穀物用の倉庫や金物屋なんかは古い区間。
農業従事者が住まう区間は古くからあるもので、僕の家の前にある石畳ももちろん角が取れている。
「ワキヤ!」
自宅まであと数分というところで、明るくて遠慮のない声に呼び止められた。感傷に浸っていた頭を慌てて切り替える。振り向いて見ると、薄手のガウンコートを羽織った影が、ひょこひょこと跳ねるように後を追ってきているのだった。
「ジーナ? どうしたんだよ、こんな時間に」
「まだそんなに遅い時間じゃあないでしょ。勇者様の幼馴染がトボトボ歩いてるのが見えたから、声を掛けに来てあげたんだよ」
「なんだよそれ。トボトボ歩いていたつもりなんてないけどな。それに、ジーナだって、その勇者様の幼馴染じゃないか」
僕の言葉には応えず、追いついてきたジーナはアーモンド形の目を細めてニカッと笑ってみせた。
少し癖のある錆色の髪を後ろで結んだこの少女は、代々村長を務めるミオーサ家の末娘であり、子供の頃から仲良くしている幼馴染である。活発で気の強い彼女は、僕やレイヴよりも三つ年下ながら、二人でつるんでいるところによく遠慮なく割り入って来る、妹分のような存在だった。
新旧区画の境目にあるのがミオーサ家で、なるほどジーナは宴会帰りの僕を自室の窓からでも見かけて飛び出してきたのだろう。足元を見ると、慌てて突っかけてきたらしいサンダルが左右で別のものになっている。
最初のコメントを投稿しよう!