終章

1/4
前へ
/54ページ
次へ

終章

 僕は三番目だった。  歴代の勇者の中で初めて一人一殺の戦法をとったのは、確か四代目だったか。  魔王城に突入した勇者一行の前に強敵が立ち塞がるたび、メンバーのうちの一人がそれを相手取り、残りのメンバーだけで先へ進む。そうして最終的には勇者が魔王との一騎打ちによりその野望を打ち砕いたのだという。  それは勇者パーティーの勇敢さや互いの信頼関係を象徴する逸話として吟遊詩人たちによって語り継がれており、初代の伝説に次いで人気のある英雄譚となっている。  魔王討伐を成し遂げた暁には、この戦いも後世に語り継がれるのだろうか。  二人の背中を見送りながらそんなことを考えてしまったせいで、僕は状況にそぐわない笑みを浮かべてしまっていた。それをどう捉えたものか、立ちはだかる魔王軍幹部は構えるように持っていた錫杖を下ろし、そして彼もまた愉快そうな笑みを見せた。 「随分と勇ましい。辺境の馬の骨が、良い顔をするようになったものだ。しかし――」  僕が構えを解かずにいると、敵は構え直すどころか座り込み、あぐらをかくとやはり可笑しそうに笑った。 「戦力の分散という儂の役割はもう終わった。そして君も、我々の時間稼ぎに勇者を付き合わせない、という目的を達したところだ。儂と君とが本気を出してやり合えば、どちらが勝ったところで大一番への助勢が叶うほどの体力は残るまい。ならば、もはや勝負を急く必要もないとは思わんか」 「とんだ戯言だな。決着がつけばどれだけ満身創痍になろうと僕は先へ進ませてもらうよ。それは、僕より前に残った仲間たちだって同じはずだ。こうしてお喋りなんかしている時間も惜しいぐらいさ」  僕の挑発が、敵の哄笑が、昏く高い天井に響き渡る。赤黒い闇に包まれたこの広間は、相対する屍術師が不足なく戦うためにあつらえられた空間なのだろう。彼の陰鬱な雰囲気を反映するかのごとく、燭台の炎が湿った空気の中で静かに揺らめいている。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加