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憧れと妬みは紙一重と言ったのは、誰だろう。
ある日、彼女はとても素敵な作品を投稿した。死にたがりの男の子ともうすぐ死ぬ女の子の話。ありきたりで反感も買いやすいテーマだったけれど、私の憧れの彼女は、それを最高の作品に仕上げた。とても好きで、暇があれば何度も読み返すほど、その作品の沼に落ちた。完結した時には、泣いた。あれはラストが素晴らしい。全人類が一度は読むべき作品。そう胸を張って言える。
彼女が次に投稿したのは、本当にくだらない作品だった。彼女の名前に泥を塗るような、そんな作品。私の憧れを傷付けるような作品。幼稚でくだらなく、読む価値などない作品。
そんな作品でも馬鹿は称賛した。馬鹿は辛辣でも正直な意見を猛烈に批判し、つまらない作品をとにかく持ち上げた。こんなレベルの作品なら、私だってすぐに書き上げられるのに。どうして、私の作品より彼女の語る価値もない作品に注目するのだろう。私の方がすごいのに。
心の奥底から沸き上がる思いを、私は堪えることができなかった。
『今回の作品も最高です!応援してます!』
『文章があまり好みではないです。失礼ですが、人が変わったのかと思うほど、文章力が落ちましたね』
『本当に最高!書籍化してほしい!』
『泣きました。さすが、○○さん』
『好きです!これが無料だなんて・・・・・・』
笑みがこぼれる。
二つ目のコメントを消去して、もう一度画面に見入る。
みんな、気が付いていない。この作品を書いたのは、私の憧れではない。みんなが応援する○○さんでもない。私だ。
ほら、私の作品ってすごいでしょう。憧れの彼女も大したことなかった。私の方がすごかった。彼女は有名だから、有名なだけで、実力はなかった。私の方がすごかった。私は才能がある。努力もできる。色んな人に見てもらうのは当然。
とても嬉しい。みんなが私の作品を見ている。とても、嬉しい。みんなが私の物語に夢中になっている。
彼女の名前を使って、彼女のフリをして、私はこれからも小説を書く。彼女より私がすごいのだと、私は憧れの存在を超越したのだと、証明するために。
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