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「好きな人の兄」が狙い目
「葉琉、マサ兄とは上手くやってる?」
カフェで談笑中、三咲が尋ねてきた。カップをもつキラキラしたネイルは、今日も華やかだった。
「もちろん。三咲の小さい頃の話も、よく聞くよ」
「ええっ、恥ずかしい! マサ兄、お調子者だからなぁ」
「知りたいじゃん、『妹』の話」
「改めて言われると、ますます恥ずかしいんだけど。照れるというか……」
両手で顔を覆った三咲は可愛らしかった。兄とそっくりな顔が赤い。同じ二十五歳なのに、今は本当に「妹」っぽい。
三咲とは、高校で出会った親友だった。私が彼女の上の兄と結婚したので、今は「妹」でもある。
複雑だけど悪くはない。兄妹の話を交互に聞けるのは楽しいし。
整った眉を寄せた三咲は、少し声のトーンを落とした。
「でも正直、葉琉はサク兄を好きなのかと思った。アタシと同じくらい仲良さそうだったし」
「咲次先輩、すごくモテてたよねぇ。バレンタインのチョコ、毎年すごい数だったんでしょ?」
「伝説ね。あれはちょっとマサ兄が不憫だった……」
「真咲君も、『そこそこモテた』って。……本人が」
「ホントにお調子者! 捏造だから間に受けちゃダメよ?」
「そこが可愛いんじゃん。全力で笑わせにきてくれるところ」
「ラブラブじゃん。尋ねて損した」
吹き出す三咲へ、私も笑い返す。
三咲の家は、全員美形だと思う。
彼女の兄は二卵性の双子で、長男が真咲君、次男が咲次先輩だった。
二人とも同じ高校で、学年は二つ上。在学中の「先輩」呼びを直すのに、少し時間はかかった。
咲次先輩は、昔と同じ呼び方が抜けないけれど。恐れ多くて「君」づけが難しいのだ。
ただでさえ「美形兄妹」は目立つ。「妹の親友」として二人と関われた私だけど、眩しくて失明しそうな錯覚になる。
特に、次男の咲次先輩はモテた。
三人とも似た顔だったが、咲次先輩だけは少し系統が違う。本物のアイドルみたいなイケメンだったのだ。
「サク兄のファンがあまりに多いから、妥協してマサ兄を選んだのかと。ちょっと疑っちゃった。ごめん」
ドキリとした。「だからアタシが奢るね」と申し訳なさそうな三咲を制し、私たちは席を立った。
妥協……するしかないじゃないか。
どれだけ想っても、「本命」へのハードルは高すぎた。たとえどんなに仲良しでも、相手の心は私に向かない。決して結ばれないのは分かっているもの。
だから、「本命の兄」を狙うしかなかった。
三咲は鋭いけれど、私は隠し通さないといけない。
心配ない、夫一筋な振りをする自信はあった。
だって――好きな人とそっくりな顔で、好きな人の昔話を教えてくれるから。
私は「姉」の立場から、愛を共有できるのだ。
(了)
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