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☆ゴウガミ×アザミ
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悪天候が続く、星の見えない夜。
市街地から離れた立地ということもあり、閑散としたビジネスホテルの駐車場に漆黒の大型バイクが到着した。
白い息を吐きながら正面玄関の自動ドアを開けたのは、使い込まれた黒レザーの上下とレーシングブーツをまとった「96」所属のゴウガミ班長である。
彼以外にロビーやラウンジに他の客は見られなかったが、フロントではスーツ姿の男性が1名、チェックインの手続きをしているようであった。
その先客がカードキーを受け取ったタイミングを見計らって、驚くだろうかと思いながらゴウガミが声をかける。
「よぉ、奇遇だな」
しかし突然声をかけられたにも関わらず、スーツの男は動じることなく、ゆったりと振り返った。
「まったくだ。仕事帰りに走行していた道路が、事故の影響で通行止めになっちまってさ。遠回りしても良かったんだが、途中で居眠りしちまいそうだったから泊まることにしたんだよ」
「なんだ、俺も似たようなもんさ」
続けてチェックインを頼もうとしたゴウガミの肩をポンと叩き、悪戯っぽく笑ったアザミが、
「別にツインルームでもいいだろ?」
と、カードキーをひらひらさせて見せる。
どうやらカウンター上に置かれた銀色のペンスタンドを鏡のように利用して、振り向くことなく背後のゴウガミを確認し、チェックインの際にツインルームを選んでいたらしい。
逆に驚かされてしまったゴウガミが「アンタは行動が早すぎる」と苦笑いした。
冷えた体をシャワーで温めて、ようやく一息吐くことが出来たゴウガミが、厚手のガウンを羽織り部屋へ戻る。
すると数種類のつまみを彩り良く盛り合わせたオードブルとグラスがローテーブルにセッティングされており、先にシャワーを浴びたアザミが同じガウン姿でソファに座っていた。
「チェックインの時、ルームサービスも頼んでおいたんだ。ひと仕事終えたモン同士ってことで、軽く打ち上げしようぜ?」
「ありがたい。ちょうど小腹が減ってたんだ」
入室時に盗聴器など不審なものがないか安全確認を済ませているため、気兼ねなく会話を楽しみながら軽食を終えると、アザミが枕とは反対側に頭を向けてベッドに寝転がった。
「……そんで、今回の標的は占いが大好きな男ってことで、潜入前に手相を見る特訓をしたんだが……そうだ!今ここで占ってやるよ!」
と、急かすかのように、膝から下を曲げてジタバタさせる。
ガウンがはだけて肉付きの良い両脚が露わになったが、誘っているというよりは、リラックスしている様子だ。
ゴウガミが「分かった、分かった」と律儀に目を逸らしながら、並んだツインベッドの間に敷かれたラグに、あぐらを崩して座り込む。
そして骨ばった大きな手を差し出すと、アザミが恭しくつかんで見つめ出した。
「ふむふむ、なるほど……明日の天気は晴れのようです」
「俺の手相は天気図か?」
そのあとも真顔で続けられる微妙な占いがツボにハマったらしく、笑いを堪えるゴウガミの肩が震えている。
しばらくすると、ゴウガミの右手をつかんだままアザミが突っ伏して眠ってしまったため、占いは終了となった。
先ほどは、おどけていたアザミだが、標的から極秘情報を引き出すために、今回もハニートラップで全神経を極限まで使って、占い師を演じ切ったのだろう。
「……俺の体温でも、安心してくれるんだな」
ゴウガミは労わるように、自由な左手で黒髪をそっと撫でてやったのだった。
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ゴウガミは「【2】操り人形師編」にて初登場したアザミの同期、そして元彼です(他の回にも登場しています)
私も「アザミが複数いれば……」と思うことのある二人なので、彼らの関係を応援していただけるのは、とても嬉しいです。ありがとうございます//!
今回はシャワー後なので髪が洗いざらしですが、普段のゴウガミはセットしているので、ガイドブックの1ページの左下みたいな感じです。
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