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【第6位】
☆片岡×イチゴ
※「【8】勲章狂の街編」に登場したキャラです(今回は特に本編読後にお読みいただくことをオススメします!//)
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「96」の連絡施設には、軽食がとれる休憩室が完備されている。
関係者であれば自由に使用できるというだけではなく、応援班が常駐しており、命がけで任務にあたる精鋭たちを、食事面から献身的にサポートしているのだ。
班会議を終えたカギヤが、注文したオレンジソーダとコーヒーをカウンター越しに受け取っていると、一足先にテーブル席にふんぞり返っていたマリネが、
「マリちゃん?久しぶりなの!」
と、ピンクブロンドの髪色が似合う、愛らしい青年に声をかけられていた。
マリネとイチゴは、すでに顔見知りだったので、カギヤが挨拶を交わし、3名でのティータイムとなる。
しばらく雑談していると、ある話題にマリネが食いついた。
「ん~イチゴちゃん、オヤジさんとデートしたんスか?」
「うん。オジゾ……カタオカサンに『新しい環境で勤務を始める前に、やっておきたいことはないか』って訊かれたの。だから、この国の街を仕事外で散策して見てみたいって言ったの」
「ん~でも同行者は、もっと若い男とかイケメンが良かったんじゃねぇスか?」
19歳年上の真面目堅物医師を狙っている自分のことは棚に上げて、マリネが尋ねると、イチゴが気恥ずかしそうに微笑む。
「ふふっ、ぼくは年上の人のほうが一緒にいて落ち着くみたいなの。スケジュールの都合も合ったから、それなら早いほうがいいかなって」
「オヤジさんとデートなんて緊張しちゃって、僕だったら一流の店で食事をしても味がしなさそうだけどなぁ。イチゴ君は楽しかった?」
癖である困ったような笑顔をしながらカギヤが穏やかに尋ねると、イチゴは顔を輝かせた。
「とっても!いろいろ発見もあったの!例えば以前テレビを見てた時、この国の男性は愛情表現をストレートにしないから、海外の男性のほうが好きだって言ってる女性がいたけど、全然そんなことないの」
「え……まさかオヤジさんが、イチゴ君を情熱的に口説いたってこと?」
「ふふっ、違うの。カタオカサンと二人で歩いている時、ぼく、いろんな男性からデートに誘われたの。だから、この国の男性は、本当はすごく積極的なんだなって思ったの」
「……そ、そうなんだ」
元刑事として縦社会の体質が染みついているカギヤが、言葉に詰まる。
そこでマリネが代わりに、イチゴに真相を教えてあげた。
「ん~それは隣りを歩いてたオヤジさんの存在が薄すぎて、イチゴちゃんが独りで歩いてるって周囲に間違われただけスよ」
「そういえばカフェに寄った時、途中でカタオカサンに仕事の電話があったの。席を立ったまま、なかなか戻って来ないと思ってたら、もうとっくに座ってて驚いたの!」
きっと片岡は、偶然カフェの椅子と似た色のスーツを着ていたのだろう。
「一番素敵だったのは、ディナーのあと見つけたキラキラしたお店なの!デートの最後に行ってみたいってお願いしたら、OKしてくれたの!」
「ん~キラキラしたお店?風俗っスか?それともラブホ?」
ゴシップ好きなマリネが、すかさずイチゴに尋ねる。
「ふふっ、そこはゲームセンターだったの!カタオカサン、レーシングゲームすごく上手くてハイスコア出したの!それに太鼓を叩くゲームやダンスも、ノーミスでパーフェクトだったの!ぼく大興奮しちゃったの!」
イチゴが大袈裟に話しを盛ったり、嘘を吐いているとは誰も思っていない。
しかしカギヤは、どう頑張っても「ゲームセンターで地味に無双する片岡」を思い浮かべることが出来なかった。
「それで二人で記念に写真を撮って、デートは終わったの。めいっぱい楽しんだから、これからは気持ちを切り替えて、お仕事に専念できるの!」
と、イチゴは誠実な決意の言葉によって話しを締め括ったのだが、何故かカギヤが微妙な顔になっている。
「ん~カギヤさん、どうしたスか?さてはイチゴちゃんとツーショットを撮ったオヤジさんを、羨ましいって妬んでるスね?早速ボクから優羽くんに連絡しといてあげるっス」
と、小悪魔の笑みを浮かべたマリネがスマホを手に取ったので、慌ててカギヤが制止する。
「ちょ、マリネちゃん誤解だから!班長から聞いたことがあるけど、オヤジさんって、すっごく恐妻家なんだって。だからツーショット写真なんて、よく許可したなぁって意外に思えて」
「ん~意外スか。つまりカギヤさんは、オヤジさんを脅して高級ケーキをおごらせるには絶好のネタだって、ボクにアドバイスしてくれたんスね?」
冗談には聞こえないマリネの悪だくみに、カギヤが青ざめた。
「してないから!しれっと僕を恐喝の共犯者にしないでよ!」
「ん~でもオヤジさんだって多分、人間の男っス。イチゴちゃんみたいに可愛い子に誘われて、鼻の下を地味に伸ばして思わずホイホイ許可したんスよ」
カギヤは、どう頑張っても「鼻の下を地味に伸ばした片岡」を思い浮かべることが出来なかった。
「この写真なの。ぼくのお守りにするの」
と、イチゴがポストカードぐらいのサイズの用紙を、ハンドバッグから取り出す。
どうやらゲームセンターで人気の撮影プリント機で撮ったらしく、きらびやかな多数のスタンプによって縁取られたツーショット写真が、印刷されていたのだが。
「…………これ、誰?」
思わずカギヤが呟いた。
イチゴの隣りには、眩しいくらい白い照明が当たった、目が大きく鼻筋がスッと通った美青年が写っていたからだ。
もしかしたら片岡の存在に気付かずに乱入したホストだろうかと、カギヤが想像したのも無理はない。
「カタオカサンが教えてくれたの!文字やスタンプで周りを装飾するだけじゃなくて、目、鼻、口、輪郭の形や、髪や肌の色も変えられるって!こんなスゴイ技術で気軽に遊べるなんて!って、ぼく感動したの!」
と、その時の楽しさを思い出しながら、イチゴがまくしたてる。
「夢中になってカタオカサンの目を大きくしたり、睫毛を描いたり、頬や唇を塗ったりしたの。そしたら時間切れになっちゃって、ぼくまで加工できなかったのが残念なの!」
「ん~原型とどめてねぇスから、オヤジさんが若返ったら、こんな感じだったかもっていう想像すら出来ねぇス。完全に別人っスね」
技術者としてのマリネの声を聞いたカギヤが、
「……あっ!もしかしたらオヤジさん……別人写真になることを見越して、イチゴ君にツーショット撮影を許可したのかも」
と、いついかなる時でも隙のない片岡にゾッとする。
そして、そんな片岡を恐喝し「カギヤさんも共犯スから」と言おうとしていたマリネの行動を止めて、本当に良かったと心の底から思ったのであった。
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予想外の組み合わせに、テンション上がりながら書かせていただきました!デート風景を想像しながら、お楽しみいただけましたら幸いです。投票ありがとうございました//!
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