6 婚姻という呪い

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6 婚姻という呪い

 6ー1 絶望    なんでこんなことに?  僕は、薄絹一枚の姿で全身を採寸されながら思っていた。  「特別婚姻許可証での婚姻も憧れるけどやっぱり花嫁は盛大に祝福されたいものよね」  僕の体をあちこち採寸していたルリアという名の男の仕立て屋がほぅっとため息をついた。  「それもあのメイソン辺境伯と竜人族の王子様とですものね。ステキだわ」  いや。  僕は、体をくねくねとくねらせて何やら妄想に耽っているルリアを冷めた目で見つめていた。  ロイはともかく、ディダルは、王子様なんてものではないし。  なんていうか、ディダルは、子犬みたいなところがあるし。  鏡の前に立って物思いしていると白い布を肩にかけられた。  「やっぱり白かしらね?なんたって花嫁の色ですもの」  「黒にして」  僕は、ぼそっと呟いた。  僕にふさわしいのは純潔の白なんかじゃない。  黒だ。  ルリアは、僕の呟きに小首を傾げた。  「ヴァルナム様の神子だから?」  ルリアは、黒い布を僕の肩にかけた。  「そうね。あなたには、黒の方が映えるわね。やっぱりヴァルナム様の神子だけあるわぁ」  邪神の神子であり、望まぬ子を二人も孕まされている僕には、黒の方がいい。  僕は、ため息をついた。  こんなにも僕は汚れているんだから。  採寸が終わって解放された僕は、ソファに腰かけてキーンの差し出したお茶の入ったカップを受け取った。  「まだご機嫌斜めなんですか?ラムダ様」  キーンにきかれて僕は、キーンをきっと睨み付けた。  この裏切り者め!  「ご機嫌なわけがないだろう?」  僕は、カップの中のお茶を一口飲んだ。  やはり、この領地のお茶はおいしい。  たとえ絶望しているときであっても。  僕は、お茶をいっきに飲み干してカップをキーンに返した。  キーンは、カップを受け取るともう一杯お茶を注いで僕に渡した。  「お茶でもゆっくり召し上がって心を落ち着けてくださいませ、ラムダ様。イライラは胎教によくありませんからね」  胎教?  僕は、がん、と何かで頭を打たれたような気がした。  そうだ。  僕は、否が応でもこの腹に宿った子供たちを養い育てなくてはならないのだ。  「まあ、もう赤ちゃんが?」  僕の隣に腰かけてルリアが瞳を輝かせた。  「ほんとに羨ましすぎですわ、ラムダ様」    
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