待ちわびた日

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待ちわびた日

 夏休み、それは何も子どもの専売特許ではない。会社勤めの大人にだって夏休みはある。お盆休みとして1週間、あるいは7月から9月の間のうち好きな3日間、会社によって扱いの差はあれど、夏の間に長期休暇の制度を設けている会社は珍しくない。  学生時代のように1か月も休むことは難しくても、カレンダーの並びがよければ、あるいは土日と有休を組み合わせれば9日間休むことも出来る。普段は週に2日しか休みが取れない会社員が、一週間以上仕事から離れられるなんてまさに天国のようなものだ。  だから夏休みの時期が近づくと、多くの会社員、特に若い世代はどこかそわそわし始める。今年の夏はどこに行こうか、逆にどこにも行かずに家で好きなだけゴロゴロしていようか。そんな楽しげな空想が頭を占め、誰もが夏休みを心待ちにしてカレンダーを見つめるようになる。  東由香里(あずまゆかり)もその1人だった。彼女の務め先は従業員300名程度の食品メーカーで、所属先は営業課。きっちりとした仕事ぶりが評価されて、今年から晴れて営業主任に昇進することになった。ただし、由香里は仕事一辺倒ではなく私生活も大切にするタイプで、夏休みには一週間の休みを取って旅行に行くのが毎年の恒例になっている。3日の夏休みに加えて2日の有休、そして土日。学生時代の感覚からすれば短かすぎる休みではあるが、社会人にとっては年に数回しかない貴重な長期休暇だ。  今年は8月の11日から7日間取り、そのうち最初の5日間で沖縄に行く。由香里の会社は自分で休みの日程が選べるため、一緒に行く友人の都合に合わせてお盆の時期に設定している。入社当初は周りと被るのではないかと心配していたが、お盆の方が仕事が捗るといってかえって休みを取らない人も多く、由香里は周りに気兼ねなく休みを取ることが出来ていたのだった。
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