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 武骨な指が、見た目よりも素早く動いた。  まばゆい宝石が、瞬きする間にくたびれた上着の内側に収められる。 「――おかげでカーラの薬代も、ベスの嫁入り支度も間に合いそうだ」  長年の労働で日に焼けた顔の中で、ホワイトの細い目が鈍く光った。  ほとぼりの冷めた頃、離れた土地のその手の店にこいつを持ち込めば、目玉が飛び出るほどの値段がつくに違いない。  さっき逃げ出したあの男を除けば、例のブローチがここにあることを知る者はない。それどころか、スミス屋敷に泥棒が入ったことすら、この先明るみに出ることはないだろう。  娘に甘いスミスと妻が、デボラの嘘に気づくとは思えない。  長年の友人であるスミスに、隠しごとをするのはしのびないが。宝石の一つや二つなくしても気づきもしない、銀のスプーンをくわえて生まれてきた間抜けより、喉から手が出るほど金を欲しがっている勤勉な貧乏人の方が、よほどこのブローチの持ち主にふさわしいだろう。  神様だってきっと、そうお思いになるさ。  ――元々、ここには存在しないはずの物ならば。  深いしわの刻まれたホワイトの口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。  ――偶然みつけた自分が手に入れたところで、誰ひとり文句をいう者もないはずだ。  なにしろ、あれほど自分が尋ねたにも関わらず、今日あの屋敷で会った誰もが口を揃えて言ったのだから。  泥棒など、出なかったと。 【 了 】
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