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「そうだな。あの子も年頃なんだが、母親のことが気になるのか、まだ」
さらりと答えたホワイトに、
「もったいない。あんな美人が」
ジェラルドが残念そうに首を振る。
ホワイトが、目の前の若者を静かに見つめた。
「君の方は最近、ずいぶんと大人になったようだな。お父上の仕事を熱心に学んでいるそうじゃないか。賭けごとはもう、卒業か?」
「ははは、からかわないでくださいよ」
ジェラルドのなめらかな頬に赤みが差した。
「僕だっていい年ですよ。早く親父を楽にしてやりたいんです」
「結構なことだ」
照れたように笑うジェラルドを眺めながら、保安官が続けた。
「ところで、私がここにいるわけを話していなかったな。実は、昨夜この屋敷に泥棒が入ったという話があって」
「なんですって」
ジェラルドが真剣な顔になった。
「デビーの部屋から、サファイアのブローチが盗まれた疑いがあったんだが」
ホワイトが続ける。
「この件について、何か知らないか? ジェリー」
「……いえ、何も」
怯えた目でジェラルドが答えた。
「まさか、そんな」
震え出した手を止めようと、若者が白い両手を懸命に握り合わせる。
「そうか。当然だな。昨夜といえば、君は自宅で皆から祝福を受けている最中だ。馬車で数十分も離れたこの屋敷の様子など、わかるはずがない」
がっかりしたように両手を広げたホワイトに、
「お役に立てず申し訳ありません」
ジェラルドが早口で言った。
「だけど信じられないな、泥棒だなんて。デビーの記憶違いで、宝石はどこか別の場所からひょっこり出てくるんじゃないですかね」
「……そういう考え方もあるな」
ホワイトが苦笑した。
「それじゃ、引き止めて悪かったね」
軽く手を上げて歩き出したホワイトが、ふと振り向いた。
「デビーと幸せな家庭を築いてくれよ、ジェリー。知っての通り、私はあの子の父親と、身分は違うものの昔から親しくしていてね」
表情の読めない目で見据えられて、
「もちろんです、保安官」
ジェラルドが居心地の悪そうな笑みを浮かべた。
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