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3.メイド
「ああ、ちょっと」
廊下を歩く黒髪のメイドの背中に、保安官がのんびりした声を掛けた。
ぎくりとした様子で、メイドが足を止める。
「さっきジェリーと一緒にいた子だね。確か、エイミーといったか」
「……はい」
振り向いたメイドが、廊下の端で小さく頭を下げた。
「ちょうどよかった。君に聞きたいことが」
顔を伏せたままのメイドに構わず、ホワイトが続ける。
「デビーの部屋の掃除をしているのは君かい? 今朝、あの子の部屋の窓を開けたとき、何か気づかなかったか?」
「……いいえ、何も」
言葉少なにメイドが答えた。
慎ましやかに伏せられた、猫のような大きな目。先刻、食堂の前で主人の婚約者であるジェラルドとじゃれあっていたのとは別人のようだ。
「そうか」
その様子を眺めながら、なにげない調子でホワイトがたずねた。
「たとえば、ゆうべ鎧戸の一部を閉め忘れていたなんてことは」
「ございません」
メイドが答える。
「そうかい」
ホワイトが頭をかいた。
「じゃあ、窓から泥棒が入ったなんてことは」
「滅相もない」
メイドがかぶりを振る。
「今朝もお部屋の中は、いつもと変わらずきちんとしてました。妙な足跡だってなかったし、おかしなことは何も」
「……ありがとう。邪魔したね」
それ以上食い下がることなく、うなずいてホワイトは立ち去った。
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