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(ああよかった)
保安官の姿が見えなくなると、メイドのエイミーは小さく肩をすくめた。
今朝、いつもの通り窓を開けて空気を入れ替えようとお嬢様の部屋に入って、開いたままの鎧戸があるのに気づいたときには、血の気が引いたものだ。
前の日の夕方、うっかり一枚だけ戸締りを忘れてしまったらしい。
(ほんとによかった。あの窓から泥棒が入ったなんてことにならなくて)
エイミーは安堵の息を吐く。
昨夜は雇い主のスミス一家が留守にするため、屋敷を抜け出して街に住む恋人と朝まで一緒に過ごした。その約束が楽しみなあまり、浮かれて戸締りが疎かになってしまったのだ。
(こんなことがばれたら、クビになっちゃう)
絶対に、隠し通さなければ。そしてさっさとお給金を貯めて、一日も早く恋人と一緒になるのだ。
たまにちょっかいを出してくる、お嬢様の婚約者のジェラルド様。あんなのはただの暇つぶしだ。
なんせ、ちょっとばかり見た目がよくたって、金持ちのひとり息子のくせに年中借金取りから逃げ回っているような男。あんなへなちょこ、親のあとを継いだってうまくいきっこない。
大酒飲みで賭けごと好きの父親のせいで苦労してきたエイミーには、男を見る目があった。
(しかも、どうしようもない女好きときてるんだから。まったくお嬢様も、どうしてあんなのがいいんだか)
ジェラルド様との火遊びも、閉め忘れた窓も。生真面目な箱入り娘のお嬢様には、少々申し訳なかったけど。
(……ま、お嬢様だって、たまにはちょっとばかし痛い目にあって、世間ってものを知ればいいんだわ)
ふん、とひとつ鼻を鳴らすと、エイミーは次の仕事へと廊下を歩きだした。
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