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「向こうに見える島が、竜断島。その手前に、子分島と呼んでいた小島がある。あの小島は、釣り人しか行かない」
小島と言っても、木が天辺に三本程生えているだけの、岩のような島だった。
「そっちに突き出ているのが、小岬。その岬の下から泳いで、竜断島に行っていた」
小岬は突き出ているので、竜断島に一番近い。それでも、海流があるので、見た目よりも渡るのは難しいらしい。
「俺達の中学校は、陸側にあって、そっちだ」
すると、港に行くよりも、小岬に行くほうがずっと遠かっただろう。
「ゆるやかな坂が続いていて、簡単に走れる。朝の登りは急坂を上っていた」
灯台の先にも岬が続いているが、立ち入り禁止になっていた。先が切り立った崖のようになっているので、草に隠れた状態では危険なのだろう。
「綺麗な景色ですね」
「海しかないけどね」
岬には高さがあり、海岸も見渡す事が出来た。栄えている海岸と異なり、港の方は昔のままのような感じがする。
「小岬に行ってみます」
「俺が運転するから、助手席で海を見て欲しい」
村雨は、そのまま車に乗り込み、小岬へと車を走らせた。
村雨に言われた通りに、海を見ていると、本当に海岸とは波が全く異なっていた。
「こっちは、波が荒い」
「海流が違うからね」
見えている岩に、激しく波がぶつかり、飛沫を上げている。それに、思っていたよりも絶壁が続き、下へと続く道がない。
「ここは、岬側に潮が流れていて、溺れると沖に流される。だから、遺体が上がらない場合が多い」
だから、浜のある海岸で人は泳ぐが、港側では泳がない。
「それに、小岬で狭くなっているせいで、潮の変わり目では、渦も発生する」
今も潮の変わり目なのか、所々で渦が出来ていた。この渦が危険だという。
「渦に巻き込まれると、出られなくなり溺れ死ぬ。船でも、潮の変わり目では、ここを通らない」
そんな場所でもあるが、その時間を外せば、穏やかになるらしい。
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