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◇
お嬢様が頭を打って病院に運ばれたと聞いたのは、丁度お茶の準備をしていた時だった。
どうやら乗馬のお稽古中に突然馬が暴れだし、制御できずそのまま振り落とされてしまわれたらしい。猟騎帽を被っていたため目立った外傷はないようだが、一時意識を失われたとか。
話を聞いた私は、すぐさま病院へ駆けつけた。
病室のドアをノックし、無礼を承知で返事も待たずに踏み入る。ベッド上にはぼんやりと身体を起こすお嬢様の姿があった。落馬の当時のままの格好だが、いつも綺麗に整っている髪だけはくしゃりと乱れていた。
「ステラお嬢様!」
私に気が付くとお嬢様は頬を染めて顔を背けた。
「えっ、何。どういうことなの? マイクよね? マイク=ケッテクレー。実物が眩しすぎる――で、私がステラ……?」
よく分からないが、何やらぶつぶつおっしゃっている。私は首を傾げつつその美しい顔を覗き込んだ。
「お嬢様?」
「私のこと、よね……そうよね、それ以外ないもんね!」
どうしよう、どうなってるの、などと呟いているお嬢様は、普段とはまるで別人に見えた。打ちどころが悪かったのだろうか。私は途端に心配になった。
「まだ、お加減がよろしくありませんか。頭が痛みますか? よろしければ、医者を呼んでまいります」
「医者!? ――えっと、ここは一体どこかしら。マイク」
「メーイ記念病院です。お嬢様は落馬され、こちらに運ばれました」
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