或ル男ノ断行

8/10
前へ
/10ページ
次へ
「ごめん、変なこと言ったよね。もしもこの先、とっても素直で可愛い子が現れたとしたら、マイクはその子に恋しちゃうんだろうなって思って……」  何を言っているんだ、この人は。何を。  私の戸惑いが顔に出ていたのか、お嬢様は慌てて付け足した。   「私なんてほら、すごく意地悪だし、冷たいし、マイクにとってもいい主とは言えなかったじゃない? いつ見限られても全然不思議じゃないっていうか……」  私はつい拳を握りしめた。  本当に、この人は何もわかっていない。何も。  黙り込む私に何を思ったのか、相手は畳みかけるように言った。 「私、これからは心を入れ替えようと思うの。なるべく目立つ真似はしないし、敵は作りたくない。皆に――マイクも含めてよ――分け隔てなく優しくしたい。そのために、マイクにも手を貸してもらいたいの!」    おかしい。  果てしない違和感が私を襲う。  競ってこそ、その頂点に立ってこそのお嬢様ではないのか。目立つの厭い、敵を恐れるなどあり得ない。優しさ――褒美は常に見せる必要はない。  違う。  違うのだ。  これまで噛み合っていたものが、音を立てて崩れていくようだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加