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佐藤と伊藤
鼠5人と兎2人を乗せたプレジャーボートは港を出港した。
全員が銃を携帯し船内は緊張感に包まれている。
今、警察に現場を押さえられたら全員逮捕だなと佐藤は人ごとのように考えていた。
まぁそちらの方がマシかも知れない。
これから海外の工作員と撃ち合いをするのだから…
鼠の班長、伊藤が口を開く。
「全く… たまたま船が空いてたからいいけど無かったらどうするつもりだったんだよ? お前らはいつも計画が甘すぎなんだよ。」
舌打ちして、いつものダミ声でがなりたてる。
佐藤は昔から伊藤が苦手だった。
伊藤から滲み出る暴力の匂い、どうしてもソレが鼻につくのだ。
僕は極力感情を出さずに答えた。
「コチラが監視していたのは月子の方じゃなくて芙美だったもので…
対応が後手に回ってしまったのは謝ります
船の手配はありがとうございました。
お陰で助かりました。
お友達はお金持ちなんですね…」
「仕事で使ってるんだよ。薬の取引とか密漁とかな…」
事もなげに返してきた。
鼠達は暴力事には慣れていた。
普段から射撃や戦闘訓練も行なっている。
伊藤がなんとなく機嫌がいいのも実践で
腕試しができるからだろう。
力を持つ者は力を使いたがる…
教祖の言葉が頭に浮かんだ。
伊藤は所詮鼠だった。
隣り町の港から出た月子達の船は島陰でレーダーには引っかからなかった。
逆に言えば、相手はまだコチラの存在には気づいていないという事だ。
佐藤は月子に貼り付けたロキの気配を辿ると船を操縦する鼠に方角を指示した。
青山教祖から伊藤に連絡が入ったのは2日前だった。
「至急、船をチャーターしたいのだが用意出来るか?」
「心辺りは無いわけじゃないが…
何があった?」
「ダライヤ国の工作員が月子の拉致を画策している。」
「狙いは深淵か…」
伊藤は月子が深淵持ちだと噂では聞いていた。
「たぶんそうだろうな。 能力持ちの工作員は喉から手が出るほど欲しいだろうダライヤが考えそうな事だ。」
青山は否定しなかった。
「わかった、船が捕まり次第折り返し連絡する。 それにしてもヤツら何で月子の存在に気づいたんだろうな?」
「理由はわからないが面倒な事になった絶対に月子をアイツらに渡すな、アレは私の器だ… 」
伊藤は知り合いに連絡すると船の準備を頼んだ。
ダライヤは呪術研究に熱心な国だ。
そいつらが深淵を狙っている…
「面白くなってきたなー」
一言呟くとニヤリと笑った。
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