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偽装
工作員達のクルーザー船が見えてきた。
「ヤツら機関銃でも撃ってくるかもな…」と伊藤がボソッと呟く。
それを聞くと持っている拳銃が頼りなく思えた。
かなり近づいたがクルーザー船は相変わらず静まりかえっている。
ロキの視界が共有できる距離になったので佐藤は船を止めさせた。
魔法陣を書いた紙を広げ目を閉じて意識を集中する。
始めに見えたのは、倒れて意識のない月子だった。
殴られたのか顔の傷が痛々しい。
呼吸はしている。死んではいないようだ
辺りを見回すが誰もいない、船室に降りてみる。
そこには目を疑うような光景が広がっていた。
ここでも辺りを伺うが生存者はいないようだった。
意識を自分に戻し目を開く、伊藤達が不思議そうな顔で僕を覗き込んでいた。
「船を近づけて…
相手の船に乗り移ります。抵抗はされません。」
鼠達は半信半疑だった。
鼠達とは緊急事態以外は行動を共にする事はない。
僕が幻獣師と知らなければ彼らの目には呪術師のように映る事だろう…
兎達ですら僕が幻獣師である事は知らない。
魔法陣など僕には必要ないがブラフの為にいつもコレを使う。
能力を秘密にする事は16年前に亡くなった准一教祖との約束だからだ。
甲板で月子はロキにもたれかかっていた
ロキに触れるという事は予想通り月子も見鬼だった。
顔立ちにも准一教祖の面影が強い。
月子にはそのまま眠っていてもらって作業にかかった。
「コレはひでーな。仲間割れか?」
船室に降りた伊藤は興味深々だった。
3人の首が曲がった男と、複数の銃弾を撃ち込まれた男…全員絶命している。
「コイツが1人で丸腰でやったのか?
いくら護身携帯用の殺傷能力の低い銃とはいえ、これだけ撃ち込まれても動けたとはすげーな。
いやはや、ウチにもこんな気合いの入った人材が欲しいくらいだ。」
「冗談はそれくらいにして…
打ち合わせ通りにお願いします。
くれぐれも痕跡を残さないように…」
警察に深淵に関する秘密が漏れないように情報を抹消する作業を入念に行った。
月子の拉致理由もコレで迷宮入りする。
並行して鼠達には捜査の撹乱を狙って、銃撃された教師の死体を船から離れた場所に捨ててくるように指示をした。
今井は既に警察から水上月子誘拐の容疑で指名手配されている。
まだ生きていると思われた方が都合がいい。
30分ほどで作業が終わった。
遭難信号を出すと急いで船から離れる。
月子にはロキを付き添わせたままにした
頃あいを見て引き上げればいい…
それにしても疲れた。
ただでさえ疲れるのに、伊藤にかかわると普段の2倍増しで疲れる気がする。
早く帰ってロキと添い寝して眠りたかった。
たとえ幻であってもロキは佐藤にとってかけがえのない癒しだった…
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