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「あ、ありがとうございます」
グラスワインが置かれた。
もう何杯目だろう。でも、おかげさまで、心が軽くなってきたのが分かる。
ずっと押し殺していた、本当の自分。それがちょっとずつ、見えてきた。
いままでの私、たぶん無理していたんだろう。一所懸命に頑張ってきた。でも、それは……ただ何かの役割を、演じていたに過ぎない気がした。
そんな自分を振り返ると、なんか凄く哀しくなってきた。
ごめんね……
昔の自分に、私は詫る。
すると、瞼が震えてきた。涙腺が熱くなってくる。
ポトリ……
テーブルの上に、一滴が落ちた。同時に、感情の扉が解放される。
ポトリ、そしてまたポトリと、涙が落ちてきた。
泣いちゃだめだょ……
哀しみのヒロインを演じるつもりなんて、全然ないんだから。
ほら、奥にいるカップルに見られている。ここ、お店なんだから……
でも涙が流れたためか、気持ちはだいぶ落ち着いていた。不思議といま、自分を客観視できている。
張り詰めていたものは、完全に緩んでいた。すると今度は、一気に酔いが回ってきた。
コトン……
何かが倒れる。その音とともに、私はそのままテーブルに突っ伏していた。
もう、ひと目を気にせず泣いてもいいんだね、そんな安心感に包まれていた。
ふたたび流れる涙。ダラダラ、果てしなく、流れていた。
意識が少し、遠のいて行く……
え……
あっ、何? これ……
なんでこんなに、テーブルが濡れてるの……
瞳から湧き出た、大量の悲しみ……それがテーブルを濡らしていた。
やっぱりちょっと、飲みすぎかな……
その涙は少し、フルーティーなワインの香りがしていた。
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