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魔女裁判
嵐の中、ミノタウロスの嗤い声が響いた。不気味な嗤い声だ。
夕方過ぎから降り出した雨は未曾有の豪雨となった。三浦半島から上陸した台風は横浜、東京、千葉房総半島を中心に甚大な被害をもたらしていく。
二十一世紀最大級の台風の前には近代国家の粋を結集した京浜地帯も脆さを露呈していった。
圧倒的な暴風雨に大都会の交通網は完全に麻痺していた。
記録的な豪雨だ。時折り閃光が煌めき、地鳴りのような雷鳴が轟いた。
すでに時刻は一時を回っている。
ここは神奈川県神倉市の高級住宅街に建つマンションだ。
どんなに泣いても喚いても何も声が聞こえない。
北浦優美にとって信じられない屈辱だ。身の毛もよだつような悪夢に魘されているみたいだ。
これまで北浦優美は上から目線で他人に指図をしてきた。誰も彼女を咎める者はいない。
美しく気高い彼女は他人の命令などきく必要はない。何でも命じれば手下の男らが代わりにやってくれた。いつでも自分中心に地球は回っていると勘違いしていた。
だが今回の相手は手下とは違った。見るからに狂暴な怪物ミノタウロスだ。牛頭羅刹の仮面をかぶり、容赦なく彼女に暴力を振るってくる。
『おい、北浦優美。せっかく遊んでやろうッて言ってんのに、いつまで失神してる気だァ』
不気味な声を放ち、容赦なく優美の頬を叩いた。
「うッギャァァーー」
思わず優美は悲鳴をあげた。あまりの衝撃に目から火花が散りそうだ。
男に頬を叩かれるなんて生まれて初めての経験だ。ぶたれた頬が燃えるように熱い。口の中が切れたのか、唇の端から血が滲んでいる。無意識に涙が頬を伝っていった。
『ケッケケェ……、どうした。姫。打たれると痛いだろう』
「ぐッウゥ、痛ッてェ……。このォ」
優美が気づくと、部屋の壁に磔にされていた。両側から手錠で拘束されている。
「な、テメェ……、ふッさげんなァ」
まだ反抗的な口ぶりだ。
必死にもがくが、腕は手錠でつながれ身動きが出来ない。無惨に衣裳も引き裂かれ、下着もむしり取られていた。わずかに残ったドレスが大事な部分を隠していた。
しかしプライドの高い彼女にとって、この上ない恥辱だ。
『ケッケケェー……』薄気味悪い嗤い声が部屋中に響いていく。
異形の黒い怪物が優美の顔に鼻面を寄せ舐めるように覗いていた。黒い牡牛みたいな被り物だ。今にも怖ろしくグロテスクな牙を剥いて噛みついてきそうだ。
「だッ誰なの。牛頭かよ。あんたはッ?」
顔をそむけ睨みつけるようにして訊いた。
『ケッケケェ……。知るかァ。ウッシィだか、メッシィだか。お前を裸に、ひん剥いて思う存分、犯してやろうかァ!』
荒く熱波のような鼻息が頬へ掛かってくる。穢ないヨダレがボタボタと頬を伝っていく。ミノタウロスは優美の下半身へ手を伸ばしていく。淫らな手つきだ。
「なッ、やめろォ……。触んなァァァ!」
思いっきり暴れようとするが、全く身体の自由がきかない。激しい豪雨で悲鳴も外へは届かない。
「ぐうゥ……、この私にこんな真似をして、ただで済むと思うなよ。ペッ!」
まだ優美は牛頭羅刹にツバを吐きかけ、ツッパってみせた。思ったよりも強情な女性だ。
『ケッケケ、このままただで済ます気なんてねえェよ。穴と言う穴に突っ込んで、死ぬまで犯してやるぜェ……』
「な、なにィ?」
『さァ、北浦優美。これより魔女裁判の開廷だ! ケッケケェェェーー……』
牛頭羅刹の仮面を被ったミノタウロスは、また不気味に嗤ってみせた。狂気の眼差しが煌々と光りを放った。
「ま、魔女裁判……?」
ワケもわからず、全身に戦慄が走った。
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