白い鬼は楽しく生きたい

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 澄也が庭の木から拝借してきた桃をひとつ食べ終わるころには、机の上には野菜たっぷりの食事が並べられていた。作り立ての料理の香りが食欲を誘う。いそいそと机の前で正座した澄也は、手を合わせながら白神様をじっと見上げた。 「白神様、いつもありがとう。……あと、ごめん。本当だったら、お金を払わなくちゃいけないだろう。俺、もらってばっかりだ。何も返せてない」  唐突な礼と謝罪の言葉に、白神様は首を傾げた。 「なんだい、いきなり。いつもそんなこと気にしないだろうに」 「気にした方がいいのかなって思ったんだ。俺、毎日来てるし……」  気にしまいとは思っても、健に投げつけられた言葉は、ちくりと澄也の心に刺さっていた。毎日毎日憑りつかれたように通っている。通うのは澄也の自由だが、白神様にとっては迷惑でしかないだろう。うなだれる澄也を見て、白神様は小さく苦笑した。 「野菜は裏の畑で育てたものだし、坊が食べてくれると私も嬉しいんだよ。お金もお返しもいらないよ。おいしく食べて元気に育ってくれれば、それで十分」  優しい眼差しに、胸がほっこりと熱くなった。湧き上がる気持ちをそのまま、澄也は笑顔に込める。 「……俺、白神様が大好きだ。いつも本当にありがとう」 「どういたしまして。私も坊が大好きだよ。さあ、たくさんお食べ」 「うん」  ぽつぽつと話をしながら、出された食事をきれいに平らげる。机の片隅に箱詰めされて置かれているのは、明日の朝と昼の分の食事だろう。優しい白神様は、親に食事をもらえない澄也の状況を知って以来、何も言わずに毎日恵みを与えてくれる。    澄也が食事を済ませると、白神様はおもむろに隣の座布団を叩いた。近くに来いと示す仕草に、澄也は首を傾げながらも膝でにじり寄る。 「何?」 「悲しいことがあったんだろう」  澄也の顔をじっと見て、白神様はさらりとそう言った。白神様に隠し事はできない。澄也の具合が悪い時も、悲しいことがあったときも、白神様はすぐに見抜いてしまう。 「なんで分かるんだ?」 「まあ、それだけ露骨にしょんぼりしていればねえ」 「白神様はすごいな」  落ち込んではいるが、顔に出したつもりはなかった。ぺたぺたと顔を触っても、自分では分からない。話して楽しい話でもないけれど、ばれてしまっているのならば意地を張る理由もない。そう思って澄也は今日の出来事を話そうとしたけれど、うまい言葉がどうにも見つからなかった。 「……俺、うまくできないんだ」  ようやく吐き出した言葉は、自分で思うよりずっと弱々しく聞こえた。
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