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第三者の俺から見ても、 うちのクラスの川瀬由貴と岸野葵は 絶対に両思いに違いなくて、 早く付き合っちゃえばいいのにと思ってた。 お互いに意識し合ってるのは丸わかりで、 何度も彼らに言ってやったんだ。 「お前らは片想いじゃない、早く告れよ」 って。 でも、何を迷ってるのかわからないが、 なかなか付き合うに至らない。 ホント、時間がもったいないと思うよ。 人生は長いようであっと言う間なんだぜ? ということで今日は、 この愚か者、川瀬と岸野が 両思いになるきっかけを 2人の共通の友人である佐橋雄大が、 お話しします。 うちの学校は、中高一貫の男子校。 勉強はまあまあ大変だけど、制服はないし、 ピアスを開けてる奴なんか フツーにいたりする自由な校風。 川瀬と岸野、そして俺は 同じ1年A組のクラスメイトとして、 そして軽音楽部のメンバーとして、 今年の春に知り合った。 バンドはギター兼ボーカルの川瀬、 キーボードの岸野、ベースの俺に、 1年B組にいて俺の親友である秋津昌美が ドラムというメンバーで構成。 秋に開催される文化祭に向けて、 放課後にオリジナル曲を練習している。 「今日は、何から練習する?」 秋津がドラムでリズムを取りながら 水を向けると、川瀬と岸野が同時に答えた。 「「雲になりたい、で」」 そして、俺に軽く揶揄われてしまうのだ。 「はいはい、相変わらず仲がよろしくて」 そう言われた川瀬と岸野は、 お互いの顔を見合わせて照れ臭そうにする。 これがいつものパターン、 秋津とともに呆れるくらいの頻繁さだ。 川瀬が作詞し、 岸野が作曲するオリジナル曲は、 わずか3ヶ月で10曲を超えた。 その中でも、 彼らが声を揃えて言った「雲になりたい」は 男子高校生が片想いする相手(特に女の子とは特定されていない)に告白を決意し、 実行する曲。 まさに彼ら2人の世界が、 歌詞の至る所に散りばめられている。 「だから、さっさとくっつけって」 川瀬がトイレに行った隙を狙って、 そう岸野に言うと、 「え?何の話?」 とはぐらかしてくる。ホント、愚か者。 「秋津も、何とか言ってくれよ」 と秋津に話題を振り、秋津からも 「岸野は、付き合いたくないの?」 と笑われてるというのに、 岸野の奴はわからないという顔をして、 「付き合う?誰と?」 と首を傾げている。 仕方ない、川瀬に漢になってもらおうと、 川瀬が戻ってきたタイミングで 今度は川瀬に話を振ってみた。 「川瀬、岸野と付き合うつもりはないの?」 ストレートに言ったはずだったが、 「佐橋、お前は病気だ」 と真剣な表情で返された。 ここまで周りをあしらうつもりなら、 意地でも言わせてみせる。 帰りのバスの中で 鼻息荒く秋津に言った俺に、秋津は、 「まあまあ。2人に任せなよ」 と宥めてきた。 「お前だって気になってるくせに」 「確かに気になるよ。雲になりたいを聴く たびに、こいつら公然と告白し合ってるって 呆れるくらいだし。だけどさ、何かあるんだよ。俺たちに素直になれない、何かがさ」 微笑む秋津にそっと手を握られて、 何も言えなくなった。 俺は俺で親友である秋津と、 誰にも内緒で付き合っているのだ。 川瀬と岸野が俺と秋津の関係を知ったら、 彼らの状況は変わるのだろうか。 決してお前たちは、マイノリティじゃない。 目の前に前例がいると言ってやればいいのかと何度も秋津に確認したが。 秋津は、首を縦に振らないでいる。 川瀬と岸野に任せればいいとの一点張り。 中学時代からの付き合いの秋津には 普段不満なんて微塵も感じないが、 唯一その点だけが合わない部分だった。
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