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文化祭の夜に告白するつもりだったらしいよ、 彼ら」 病室に戻ってきた秋津が、笑って言った。 川瀬と岸野は、 この学校に伝わる両思い伝説を知っていた。 文化祭の夜、打ち上がる花火をバックに、 校舎の屋上で愛を誓い合うと一生離れないと いう伝説だ。 創立以来ずっと男子校だというのに、 いったい誰が始め、広めたのかは不明だ。 「倒れた佐橋に言われて、1日も早く 付き合うって言ってた。 今頃、告白の場所探しに奔走してるん じゃない?笑っちゃうよね、 さんざん告白めいた歌を歌ってるのに」 雲になりたい、 キミが見つめる先にいつもなりたい ってさ、と秋津が口ずさんだので、 「俺と秋津が付き合ってることは、 彼らの告白の後押しになったのかな」 「なったんじゃない?」 「そうか」 「川瀬は何となく気づいてたけど、 岸野はずっと驚いてたよ。佐橋くんに 騙されたとか言ってた」 「あはは」 「身をもって彼らに示したんだから、 早く退院してくれよな」 「うん」 秋津に腕を伸ばし、抱きついた。 あれから川瀬と岸野は、 誰もいない川瀬の家に行き、 永遠の愛を誓い合ったそうだ。良かったな。 最後に。 倒れるまでは死ぬほどお喋りだった俺が、 必要以上の言葉を喋らなくなった。 脳波に異常はなく、 血管は切れてないという医者の見解だが、 たぶん三途の川を渡りかけて、 知らずに何かを悟って帰ってきたのだろう。 他人のことに寛容になり、 穏やかな微笑みを浮かべるようになったと 秋津に言われて、自分でも驚いている。
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