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学校についた時はほぼ遅刻寸前だった。
優希は橋を歩いている時、僕に気を遣って先に行っていいよと言ってくれた。
けど断った。
優希が足が悪いからってわけじゃない。
ただ一緒に登校したかったからだ。
僕も同級生と話すのは久しぶりだったし何より優希とは仲良く出来そうだと思ったからだ。
登校中、僕は石山達の事を話した。
僕の話を誰かに聞いて欲しかったし、信じて貰いたかった。
だから、妹がママに殺された事とオウを刺して殺してしまった事以外は正直に話した。
石山に誘われていたサッカークラブの入団テストに行けなかったせいで無視されるようになり、いつしかクラス全員から無視され、机までがベランダに出されてしまっていた事、そして妹が死んだのは僕が殺したからだと言われ、石山を椅子で殴った事を。
「その話、僕のクラスでも少し話題になってたから知ってるよ。けど、タクミ君がその噂の人だってのは知らなかった。話してくれてありがとう。凄く嬉しかったよ」
優希は笑顔で、そう答えた。
ありがとうなんて言われ馴れてないから何だか恥ずかしかった。
「今日さ」僕が言った。
「何?」
「学校終わったら一緒に帰らない?」
「別にいいけど、どうして?」
「子猫が目を開けるかも知れないだろ?それに優希があの場所にいたのを石山達は知ってるじゃん。何であんな場所にいたのか?って考えて待ち伏せされてたら優希1人じゃアイツら勝てないじゃん?2vs1は卑怯だしさ。それにもし優希が可愛がってる子猫の事を気づかれたらアイツら虐めるかも知れないし…」
「うん。確かに僕1人じゃ敵わないよね。わかった。一緒に帰ってくれる?」
「うん」
そう約束して僕等は下駄箱で別れた。
「待ち合わせは、正門でいいよね?」
優希が、教室に向かって走り出した僕に向かってそう言った。
僕は身体を後ろ向きにしながら、
「いいよ。わかった!」
と手を振りながら返した。
教室に入ると黒板に大きな字で
「妹殺しの新道タクミ。人殺しはいなくれ」
と書かれてあった。僕は石山をと須藤を探した。
石山は数日ぶりの登校で手にはギブスをしていた。
威張り腐った顔で僕を睨みつける。
クラス全員が自分の味方だと思っているのだろう。
「おい、泡吹き野朗」須藤が石山の側に来て言った。
「石山君はまだ見た事ないよね?こいつ昨日、泡吹いて倒れてさ。凄く気持ち悪かったんだ」
「そうなんだ?そんな気持ち悪い人殺しと一緒にいたら、泡吹きが感染るからいなくなって欲しいよな」
「そうだよね。でも昨日も泡吹いたから今日もやるかもだよ」
「本当かよ。気持ち悪りーなー」
僕は無視して自分の席につく。
椅子を引くと手がチクッと痛んだ。
みると椅子の背もたれと座る部分に沢山の画鋲が貼り付けてあった。
その画鋲を止めてあるテープを剥がた。
「何だよ、引っかからないじゃん。つまんねー奴」
石山が言う。
取った画鋲を机の上に置いて席に着く。
ランドセルをロッカーに入れようと思ったけど、やめた。
石山達が何かするかも知れないと思ったからだ。
明日からランドセルは持ってこない方が良いかも知れない。
僕は石山を無視して先生が来るのを待った。
教室に入るなり先生は溜息をついた。
黒板を見たからだ。
誰一人消そうとしなかったそれ自体が、僕のこのクラスでの位置だという事に先生は改めて気付かされたようだった。
それが溜息となって出たのかも知れない。
面倒な事はよしてくれ。
先生の溜息が僕にはそんな風に聞こえた。
先生は誰が黒板にこんな事を書いたんだ!という追求はせず自分でそれを消していった。
その後、1人1人を見渡していき、僕と目が合うと口元を歪めた。
けれど学校に来ていた事に安心したのか、何も言わず目線を他へと移した。
石山と目が合った先生は
「石山、おはよう。怪我はもう大丈夫なのか?」と尋ねた。
「先生、これ見てよ」とギブスがつけられている腕を持ち上げる。
「全然大丈夫じゃないでしょ?」
「あぁ。そうだな」と言いながら僕の方を見た。
「新道、石山にはちゃんと謝ったのか?」
僕は返事をしなかった。
「新道、聞いてるのか?」
うるさいなぁと思いながら仕方なく聞いていると言った。
「ならもう一度聞くが、石山にはちゃんと謝ったのか?」
「向こうが先に謝って来たら僕も謝ります」
「そうじゃないだろ いいか?お前は石山に怪我を負わせたんだぞ?」
「それは向こうが僕を人殺しって呼ぶからじゃないですか?先生だって人殺しって言われた怒るでしょ?」
「まぁ、確かに怒りはする。だからって先生は殴ったりはしないぞ」
そんなのは嘘だ。
先生は僕と同じ状況になった事がないからわからないだけだ。
人の気持ちなんて、絶対他人にはわかりっこない。
全く同じ状況を経験するなんて、まず有り得ない筈だ。
「とにかく新道と石山、お前達は後で先生の所に来るんだぞ」
石山は
「何で俺が行かなきゃいけんないんだよ。なぁ?」
と須藤の方を向いて同意を求めた。
須藤は先生の目を気にしてか、何も言わなかった。
ホームルーム後、僕と石山は先生に連れられ職員室に行った。
先生は僕と石山の手を取り無理矢理、仲直りだと握手をさせた。
その手が触れただけで怒りが込み上げてくる。
この場で殴ってやりたかった。
だけど、それは今じゃない。
「喧嘩両成敗って言うだろ?今後は後腐れなく
前みたいに仲良くするんだぞ?」
石山は渋々はいと返事をしたけど、僕はしなかった。
先に職員室を出たのは僕の方だった。
直ぐにでも石山から離れたかったからだ。
あいつの側にいたら自分の気持ちが抑えられそうになかった。
石山は僕の数メートル後を歩きながら何かぶつぶつと言っていた。
その呟きは時に大きくなり、僕に聞かれたくない言葉は多分、小声で呟いていた。
「大体、最初に約束破る奴が悪りーんだよなぁ」
確かにそれは悪かったと思う。けど、行けない理由が出来たのだから仕方ないじゃないか。
それに僕はその事については、石山にちゃんと謝った。
なのにアイツはいつまでもグチグチ言いやがって…知らず知らずの内に僕は拳を握りしめていた。
その手はさっき先生に無理矢理、握手させられた手だった。
教室に向かいながらその手を眺めた。
この手は石山で汚され、今あいつの菌がこの手に付いている。
僕はトイレに寄って丁寧にその手を洗った。
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