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この日の石山は、全く僕にちょっかいを出して来なかった。 意外だったけど、一応、形だけでも仲直りしたという事実がある以上、直ぐには出来なかったのかも知れない。 それでも僕が全員から無視されているのは変わらなかった。 けれど、それはそれで気が楽だったから、話さない事は気にならなかった。 それでも給食の時は気持ちがざわついた。 また食べ物にチョークが入れられるかも知れないと思ったからだ。 でも僕の心配は無用のようだった。 終礼の時、先生はやたらと僕と石山を交互に見渡していた。 多分、放課後の事を心配していたのだろう。 実際、学校から出た後は、僕も石山も喧嘩をしないと約束は出来なかった。 石山は知らないけど、僕はまだアイツの事は許していない。 殴りたりないくらいだ。須藤だって同じだ。 石山と同じ目に合わせてやりたい。 けどそれはいつになるかはわからなかった。 前回、須藤を殴ろうとした僕は、口から泡を吹いて倒れたからだ。 その不安はあった。 だから僕はアイツらが教室を出るまで席を立たなかった。 クラス全員が居なくなるまで待っていた。 もしかしたら優希を待たせてしまっているかも知れないけど。 そうだったら理由を言って謝ろう。 教科書やノートは置きっぱなしにした。 ランドセルを背負い、静かな教室を出た。 優希は既に正門で待っていてくれた。 僕は遅くなった事を謝った。 「まぁ、流石に先生も心配だろうね」 優希が楽しそうに笑う。 「先生の気持ちもわかるけどさぁ。でもいつもあっちが仕掛けて来るんだから仕方ないじゃん ね」 僕も笑ってみせた。 僕は優希の歩ける速度に合わせながら歩いた。 「優希、大丈夫?疲れてない?」 「うん。平気だよ。通学路を歩くくらいなら大丈夫」 「疲れたら言ってくれよな?」 「わかった。その時はタクミを道連れにして休憩するからさ」そう言って笑った。 橋を渡り河川敷に向かった。 子猫の様子を見る為だ。 僕が先に土手を降り、優希の手を掴む。優希が僕の側まで降りると又、僕が少し降りて優希を待つ、そう言った感じで河川敷に降りた。 優希が、先に歩き僕が後からついて行った。 橋や土手に石山達がいないか確かめる必要があったからだ。 見える限りアイツらの姿はなかった。 正直ホッとした。だってアイツらなら絶対に優希を狙って来る。 そうなったら僕が2人を相手にするには絶対に武器が必要だった。 だけどここは椅子はないから棒か何か探しておいた方が良さそうだった。 僕は武器になるような物を探す為、伸びた草むらを蹴りながら進んだ。 優希が腰を下ろして僕を手招きした。 早く来て子猫を見ろという事だろう。 「目開いてる?」 優希の側に掛けて行ってそう言った。 「残念だけど、まだだね」 「そっかぁ」 「でも数日以内には開くと思うよ」 「目を開ける瞬間を見てみたいね」 「そうだね 僕も絶対みてみたい」 「なぁ。優希さ」 「うん?」 「朝も毎日、見に来てるわけ?」 「そうだよ。朝と夕方に来てる」 「なら僕も朝来るよ」 「良いけど、無理しなくて良いからね」 「うん。だってさ。優希の言うように、子猫が、この世界で初めて目にするものが、僕だって考えるとさ。何か嬉しくて」 「わかる?」 「うん わかる」 「さすがタクミだよ」 優希はいい、子猫の首を摘み上げた。 どうして子猫をそんな持ち方をするのか僕には疑問だった。 後で、聞いてみようと思ったその時、優希の足元に1匹のアマガエルが飛び跳ねて来た。 優希は子猫を巣に戻すとそのアマガエルを捕まえた。 腰を下ろしたまま橋を支えるコンクリートの柱に向けてアマガエルを投げつけた。 潰れる音と同時にアマガエルの足が千切れ飛ぶ。 目が飛び出し口から脳みそみたいな茶色い物が吐き出され、柱にへばりつきゆっくりと滑り落ちてく。 「え?ちょっ、優希?」 「ん?」 「何でカエル殺しちゃったわけ?」 「コイツらの為に、仕方なくだよ」 そう言って優希が子猫達を指差した。 「意味がわかんない」 「猫ってさ。動く物は何でも捕らえ食べちゃう習性があるんだ。カエルだろうが昆虫だろうがね。でもそれを許すとお腹の中で寄生虫がわいて猫自体が病気になって痩せ細ったり、死んじゃったりするから、そうならないように僕が見ていてあげないといけないでしょ?だから子猫達の直ぐ近くにいたカエルには悪いけど、子猫の為に仕方なく殺すしかないんだ」 「そう、なんだ…」 「怒った?」 僕は首を振った。 「なら良かった」優希は僕の返事に満足したのか、笑みを浮かべた。 「とても小さな子猫達だから、僕達が見守ってあげなきゃね。ね、タクミそうだろ?」 「あ、うん。そうだね」 優希は子猫を触る事に満足したのか、辺りにカエルや昆虫などがいないか、僕に探して欲しいとお願いしてきた。 僕は良いよといい、2人で辺りの雑草を荒探しした。 子猫の事を考えるのはわかるけど、殺すのはやり過ぎだと思ったけど言わなかった。 せっかく出来た友達だから、カエルくらいで失いたくなかった。 でも僕はカエルを見つけても優希には黙っていた。 見つけたら又、優希に殺されると思ったし、あんな潰れた姿は見たくないと思ったからだ。 「又、来るね」 優希が子猫に声をかけながら立ち上がる。 「タクミはいいの?」 「ん?何が?」 「子猫達にお別れの言葉をかけてあげないの?」 「あぁ。そっか。そうだね」僕は子猫達に触れながらバイバイと言った。 「明日の朝、来るからな。元気にしてろよ」 僕は優希を連れ立ってそこを後にした。土手を上ると優希は僕はこっちだからと河川敷沿いの道を指差した。 「僕はあっちだよ」 橋の方を指差した。 「なら、ここでバイバイだね」 「うん」 「明日の朝、又、橋の下で待ってるね」 「わかった。今日くらいの時間でいい?」 「そうだね」 「わかった。なら優希、又明日ね」 「うん 明日」 僕は駆け出しながら優希に手を振った。 優希はそんな僕をただ笑って見ているだけだった。
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