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2話・二人目の魔法少女
魔法少女とは。
読んで字のごとく、魔法の力や不思議な力を扱うラブリーでプリチーな少女たちの総称である。
近年ではその限りでは無いが、主に女児向けの作品が多く、日曜日の朝にやっているアニメをイメージする人も多いだろう。
基本的に正義の味方であり、魔法の力を使って人助けをしたり悪と戦うという場合が多い。
魔法少女として活動していない時はごく普通の学校に通う女子学生であることが多い。普通なら女子中学生が最も多いであろう。
そう、普通なら、である。
――カランカランッ。
「いらっしゃ~い。あら、足立さん。こんばんは」
「マスター。今日も飲みに来たよ~」
バーの扉を開けて、スーツ姿の若い男性が店の中に入ってくる。
店内には軽快なジャスが流れており、ほんのりと漂ってくる甘い香りは薔薇の香りだろう。
男は他に客のいない薄暗い店内を見回した後、カウンターにいる店の店主の前の席に腰を掛けた。
「マスターって言わないで頂戴。ママって呼んでくれなきゃイ・ヤ・よ」
「いや、でもマスターってゴツイからさ~ママってよりもマスターって感じ?」
「あらやだ、いつだって心は乙女なのよん。足立さん、お友達からデリカシーが無いって言われてるでしょ」
「そ、そんなことないよ~? それよりマスター、いつものね」
「はいはい」
足立と呼ばれた男は慣れた様子で注文を頼み、それに対して店主も慣れた様子で空のグラスをカウンターの上にあるグラス入れから取り出し氷の塊を入れ、バーの棚から札の掛けられたウィスキーを一本取り出すと静かに注いでいく。
トクトクとウィスキーが注がれる音が、ほのかに心地よい。
「そういえばマスター。このニュース見た~?」
足立は店内に設置された小さめのテレビを指さす。
店主はウィスキーを足立の前にカランッと差し出すとテレビに顔を向ける。
『次のニュースです。最近話題の変質者が子猫を助けるという事件が発生しました』
『ええ、私の子猫が電柱に上ってしまって降りられず助けを求めていると、ピンクのフリフリがいっぱいついた白いレオタードの男性が颯爽と現れて……電柱に上ったかと思うと子猫を抱きかかえて降りてきたんです。一瞬の出来事で、お礼を言おうとしたんですけど風のように去っていってしまって……なんとか動画で撮れたんです。見ます?
あ、ちなみに変質者さんの股間はご立派d」
テレビではその変質者が子猫を助ける様子が動画で流れている。
「うへぇ~、マスター見てよ。まごう事無き変態だよ。こんな変態がうろついてて、なおかつ人助けをしているなんて世も末だねぇ~」
「……そうね~。でも困ってる人を助けているんならいいと思うわよ。ところで足立さん。今日はオツマミはどうする?」
「あぁ、マスターの方で適当に選んでよ」
店主は静かに頷くとカウンター内に置いてあるナッツをお皿に取り出しながら思考を巡らせる。
(あのレオタードの人、間違いないわ……。画面越しでも分かるあの魔力……あの人も魔法少女だわ。私と同じ……!)
ゲイバーの店主をしている彼の名は小田原 武則(おだわら たけのり)。38歳、男性、独身(同棲中の彼氏あり)。
彼もまた、腰巻寛平と同じ魔法少女であった。
(だけど、アレじゃあ目立ちすぎだわ。何を考えているのかしら? あの子ったら、契約の時に説明しなかったのかしら。もしも『奴ら』にバレでもしたら……もしかしたらもうバレてるかもしれないわね。……いや、もしかして『奴ら』を敢えて誘き出すための餌なのかしら……?)
「ん? マスターどうしたの~? 何か考え事?」
足立の軽い、気の抜けるような声でフッと我に返る武則。
どうやら思考を巡らせすぎて、オツマミを出すのが遅れてしまったようだ。
(いけないいけない、今は仕事中よ。しかっかりするのよ、武則)
「足立さんがどうやったら、ママって呼んでくれるか考えてたのよん♪」
「あはは~! じゃ~まずはその濃い腕毛と脛毛を剃るところからかな~」
「んもう! この毛は乙女の嗜みだから剃るわけにはいかないわよ」
店内には二人の笑い声が響き渡る。
(何はともあれ、レオタードの彼に一度接触してみる必要があるわね)
こうして腰巻寛平の運命は今、ゆっくりと動き出した……のか?
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