1話・魔法少女(?)爆誕

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1話・魔法少女(?)爆誕

「やぁ、初めまして。腰巻 寛平(こしまき かんぺい)さんだね? 突然だけど僕と契約して魔法少女になってよ!」 「ヘイ、ミスター。ストップだ」  俺の目の前にいる人語を話す小型犬くらいの大きさの白い獣は、尻尾を振りながらとんでもない事を言っている。  人語を話すという事だけでも混乱案件なのに、こいつは何を言っているんだ?  魔法少女?  俺、41歳のおっさんだぞ? しかも子供はいないけど妻もいるし、仕事だってある。  いたって普通の働くオジサンだ。  朝早くに起きて幼馴染の妻に行ってきますのキスをした後、一生懸命仕事で汗を流し、家に帰っては妻が作ってくれた晩御飯に舌鼓をうつ。  そんな平凡で、でもたまらなく幸せな毎日を享受している、いたって普通のオジサンだ。  それに『契約』って、こいつは軽く口にしているけどなぁ。 「魔法少女になってくれたら、何でも望みを叶えてあげるよ!」 「ミスター。ストップだといったはずだが、聞いていないのかな?」 「そして魔法少女になって、この街を悪い奴の手から守って欲しいんだ!」  いや、だから人の話を聞きなさい。これだから若いもんは……。  契約ってのは願いをかなえる代わり魔法少女になって戦え、ということか。  はっきり言ってゴメンだ。  俺は大層な人間じゃない。そんな俺の守りたいものなんて自分の身と、妻の事、そして今の生活くらいだ。それ以外は……ぶっちゃけどうでもいい。  自分の身を危険に晒して悪い奴からこの街を守るなんてご立派な正義感なんて、俺は持ち合わせていないのさ。  そういうのはもっと若くて元気のいい奴らに任せるべきだろ。  それにこの獣、怪しさしかない。  俺の話を全く聞く気が無いみたいだしな。  女子中学生にウケがよさそうなネコだか犬だか分からないフォルム、真っ白くて綺麗な毛並み、クリクリと大きくてつぶらな瞳。  いかにもアニメの中から抜け出してきました、みたいな感じだがどこか胡散臭い。  仕事で色々な人と関わってきたが、こういう感じの奴が一緒に仕事をしていて上手くいかないものだ。  大切なのは意志の疎通であり、一方的に話す人間とは大きな仕事を一緒にする気にはなれない。  だから。 「ヘイ、ミスター。俺は魔法少女にならにならないよ。望みを叶えるって言ってもこの今の平凡な幸せがあれば、それでいいのさ」 「それが君の望みだね? なら契約は成立だ!」  ……ん?   「君の望みは『魔法少女にならずに、平凡な幸せがあればいい』っていう事だね! その望みを叶えてあげよう!」 「ちょ! 人の話を……! うお、まぶしっ!」  俺が言い終わる前に獣から目も開けていられないほどの眩い閃光が迸り、俺は思わず目を瞑ってしまった。  瞼の裏からでもわかる強烈な閃光。 「これで今日から君は魔法少女……にはならないと言っていたから魔法オジサンだ。変身するときは『マジカルラブリー! マジカルプリティー! マジカルマジカル、ルンルンルン♪』と唱えるんだ! じゃ、街の平和は任せたよ!」 「ちょ! まてやぁぁぁぁぁあああああ!」  目を閉じながら、思わず絶叫してしまう。  魔法オジサン? ふざけるな、何だその恥ずかしい呪文は!  やがてその光が徐々に弱まっていき、そしてゆっくりと目を開けると白い獣は消えてしまっていた。  一体、アレは何だったんだ……。 「マジカルラブリー。マジカルプリティー。マジカルマジカル、ルンルンルンって唱えると変身するだ……うぉ、何だ!」  その時、信じられない事が起こった。  あってはいけないことが起こってしまったのだ……。
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